13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2012/11/07(水) 00:53:46.08 ID:0rJjsqvo0
「初めまして。体調はよろしいですか?」
彼女はやはり柔和な声音で訊ねた。
私は上手く言葉を紡げない。
まるで、形の良い口から零れる言葉に酔ってしまっているようだ。
戸惑いながらも、私は良好である事を告げて、どうして自分が此処にいるのかを問う。
「女中と連れ立って朝の散歩をしている時に、精も根も尽き果ててお眠りになる貴方様を見つけまして、このように介抱していた次第でございます」
彼女は木漏れ日のように穏和な微笑みを浮かべて答えた。
悪意も敵意も感じられない表情だ。
教会に掲げられた聖母が脳裡に浮かんだ。
天窓から注いだ陽光を纏ったその微笑が。
訊きたいことも訊かなければいけない事も仰山あった。
しかし次々と浮かぶ疑問に、私自身の処理が追いつかなくなり口ごもってしまう。
「失礼します」
おもむろに彼女は両手で私の腕に触れる。
それから上へと伝っていき、肩を超え、首を撫で、やがて顎へと触れた。
更に頬、鼻、唇、額、眉と顔面のあらゆる箇所を両手でなぞる。
その様子は自作品の具合を確かめる彫刻家のようでも、美しい旋律を奏でる音楽家のようでもあった。
やがて、彼女は静かに手を遠ざける。
そして目を瞑ったまま言った。
「素敵な顔ですね」
232Res/180.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。