70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2012/11/30(金) 02:38:36.11 ID:PxJKzuqz0
そこでふと、抱きしめられていたやよいが真の肩もとでもぞもぞと頭を動かした。
「あ、あの真さん、もう大丈夫ですよー…」
やよいは、言葉とは裏腹に弱々しい声調でそう言った。いつものような元気は全く感じられない。
「本当?」
「はい……」
「無理、してない?」
「ありがとうございます……大丈夫ですー」
短い返事をして、やよいは真から離れ、そして地面に転がるキリンの死骸をもう一度見やった。
「……あれって、本当に作り物なんですよね?」
やよいは細い声でぽつりと呟いた。
「う、うん……そうだよ、筑川さんもそう言ってたし」
答えた真の口調は、我ながら自分に言い聞かせているかのようだった。
キリンの生首は光の無い濁った目でどこかを見つめている。
死骸は映画のセット以上に生々しい。それこそたかだかテレビ番組の小道具とは思えないほどにリアルだ。
それにさっきまで動いていたのだ、人間から変身して頭がキリンになる様子も確かに見た。
(全部催眠術で、本当のものじゃないにしても……そもそも放送できないだろ、こんなの)
放送コードに全力で引っかかっているであろうグロテスクな死骸を見ながらそんなことを思う。
お茶の間にこの光景が流されたらたちまち場の空気が凍り付いて、世間からはバッシングの嵐を受けるだろう。
内容は物騒だし、金を掛ける方向を間違っているようにも思えた。
(………って言うか、そもそもあの二人が言ってたことって本当なのかな?)
黄緑色の血液。ぬるりとした感触。星人の変身。オモチャのような銃、撃てば星人は血肉を撒き散らして爆発。転送、死んだ記憶。
撮影スタッフがひとりとして見当たらない現場。
それらをどうこうできる催眠術。そんな画期的な技術は当たり前だが今まで聞いたことも無い。
あったとしたら、こんな倫理観や常識的に間違っている番組を作るよりもっと別の使い道があるだろう。
思えば思うほど疑念が胸の中で膨らんでいく。
(いやいや、でもこれが撮影とかじゃなきゃ困るし……それにあんなの、現実的じゃない。有り得ないもん)
しかし思い直してみても、胸の内の疑念が消えることは無かった。
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