過去ログ - P「出来損ないのプロデューサー」
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212:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/11/30(土) 01:03:13.54 ID:GS6t4/q9o
仕事を終えた彼は冬馬を横に車を走らせる。
赤信号で車を止めると彼は目に入った道路標識にふと気づいたことがあった。
「冬馬の家、確かこの近くだよな。送ってくよ」
「ああ、頼む」
信号が青に変わると彼はハンドルをきって自宅とは逆の方へ車を進めた。
しばらくすると冬馬の住んでいる高級マンションが見えてくる。
「寄っていけよ」突然、冬馬がそんなことを言う。
「はあ?」彼は訳のわからないといった具合で返す。
「いつもあんたの家でご馳走になってるからな。たまには恩返ししないとな」
「恩を売ってるつもりはないよ」
むしろ、こちらが返し足りないくらいだと彼は思った。
それくらいに冬馬には感謝しているのだ。
彼の言葉に冬馬は誘いを断られたと感じた。
表情こそいつもの凛としたものだが、少し申し訳なさそうな声音で冬馬は言った。
「……嫌なのか?」
「別にそういうわけじゃないけどさ」
「じゃあ、いいじゃねえか。寄っていけよ」
「それもそうだな」
彼は冬馬に促されるまま車をマンションの地下駐車場へ停めた。
コンクリートの壁に囲まれた地下の空間には自分の車の数十倍はする高級車が等間隔で並んでいる。
ベンツ、BMW、フェラーリ……そして、友人の伝手で格安で買った中古のミニバン(軽)。
自分の場違いぶりにおもわず失笑した。
エレベーターを乗り、部屋のドアの前まで来ると冬馬は財布からカードを取り出しドアノブ近くの機械に当てた。ピッという電子音と同時に鍵が開く音がする。
「お邪魔します」
「おう」
玄関から廊下を抜けて、リビング・ダイニングキッチンに入る。
冬馬は冷蔵庫から烏龍茶を取り出してグラスに注ぐと、リビングスペースのガラステーブルに置いた。
彼はソファーに座り、烏龍茶を呷りながら雑誌を読む。
お茶請けにテーブルの上にある菓子の入った皿に手を伸ばそうとしたが食事前だと思いやめた。
彼はダイニングキッチンにいる冬馬に声をかけた。
「料理、作れるのか?」
なんとも間抜けな質問だと思った。
しかし、普段はこちらが料理を振舞う側なのでどうしても気になった。
冬馬は冷蔵庫の中をあさりながら「当たり前だ」と答える。
そうして冬馬が料理を始めると、彼は冬馬のことが気になりだした。
何を作っているのか、というよりもしっかりと料理が出来ているかということだ。
冬馬自身は料理を作れると言ったが、病院で見た林檎の皮むきの危うい包丁さばきを思い出すとどうしてもソワソワしてしまう。
彼は席を立ち、キッチンの方へ行くと冬馬はキッチン越しから菜箸を突き出した。
「男子厨房に入るべからず、だ」
「冬馬も男子じゃないか」
「そんなことはわかってる。そういう意味で言ったんじゃねえよ」
「何か手伝おうか?」
「あんたは客だ。いいから座ってろって」
「本当に大丈夫か?」
「自分のアイドルを信用しろ」
「……わかったよ」
「安心しろ。あんたの作る飯より美味いのを作ってやるからさ」
「それは楽しみだ」
不敵な笑みを浮かべる冬馬の挑戦的な言葉に、彼は楽しそうに笑うとソファーに座り直した。
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