過去ログ - P「出来損ないのプロデューサー」
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30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/08(土) 11:27:57.56 ID:s/g6vtA60
「俺があずささんの元を離れてどれくらい経ったか知っていますか?」
「えっ?」
「質問に答えてくださいよ。どれくらい経ったか、わかりますか?」
「はい。それは……もう随分と長い時間が経ちました」
「そうです。あずささんが髪を切り、その髪が昔と同じ長さに戻るくらいの時間が経ちました」
「……」
「最初に見た時は驚きましたよ」

あずさの元を去った彼が次に彼女を見たのは、何気なく点けたテレビの歌番組だった。
そこに映るあずさは、もう自分の知っているあずさではなかった。
髪を切ったあずさは生まれ変わったかのように全ての技術が向上していて、ステージの上でそれを遺憾なく発揮していた。

「女性は何かあると、けじめをつけたり、自分を吹っ切るために髪を切ると聞いたことがあります」

失恋した女性が髪を切るという話はよく聞く話だ。

「あずささんも俺のことを吹っ切って、新しく再スタート出来ていて嬉しかったですよ」

少し寂しかったですけどね、と続けて彼は自嘲気味に笑う。
日毎に雑誌や芸能ニュースで増えていく彼女の活躍と話題に、自分の存在はなんだったのか?という自問自答を繰り返したことが何度もあった。

「違います、あれは」

自分があずさに必要ないということを説明しても、あずさは否定してくる。
そんなあずさに、彼はあずさを勇気づけるかのように優しい口調で語りかける。

「今のあずささんのアイドルとしての地位、それはあずささんが自分ひとりの力で勝ち取ったものです」
「違います、違いますよ……プロデューサーさん」
「あずささんに俺は必要ありませんよ。自分の力、信じてください。そうでなくちゃ、今まで頑張ってきたあずささんがかわいそうじゃないですか」
「私にはプロデューサーさんが!」
「俺はあずささんに相応しい男ではありませんから」
「そんなはずはありません! だって、だって……」

あずさは肩を震わせながら、自分の中にある一番大切な思いを口にしようとする。

「プロデューサーさんは私の!」
「俺はあなたの運命の人なんかじゃない!」

あずさが、彼女にとって一番大事な言葉を言う前に彼はそれを否定した。
堰を切ったように、彼は自分に何度なく言い聞かせてきた呪いの言葉を吐く。

「運命の人が、あなたの期待を裏切るものか!

 運命の人が、あなたを傷つけるものか!

 運命の人が、あなたをかなしませるものか!

 運命の人が、あなたに涙をながさせるものか!

 そして、なにより」

息を荒げながら、彼は呪いの言葉の最後を紡ぐ。

「運命の人が、あなたを捨てて逃げ出すものか」




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