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16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2012/11/29(木) 15:32:19.94 ID:NexFuiRDO
執事「我々が今いる地域がここです」

 執事は新しく用意したテーブルに一枚の地図を広げ、ある地点を指差して言った。
 そして、執事はそのまま地図をなぞるように指し示す指を上下左右へと動かして説明を続ける。

執事「北に山脈。南部に大平原。
 東西には同程度の規模である国家が存在します。
 当初の目的通り、大陸南部へと向かうにはこの大平原を突っ切る必要があるのですが、前述した東西の国家は小競り合い程度に落ち着いてはいるものの未だ戦争状態にあり、また国境線が大平原を東西に二分しているため、大平原は常に緊張状態にあります」

少女「……ん」

執事「ゆえに大陸南部へと向かうには大平原を迂回、この東西の国どちらかを経由しなければなりません。
 東か西か、いずれにせよ長旅になります。
 申し訳ありませんが、しばらくの間、お嬢様には倹約を心掛けてもらわねばなりません。お許しください」

 そう言って執事は頭を下げた。
 旅にはお金が必要で、そのお金は先ほど少女が村人たちに根こそぎ渡してしまった。
 財産が金塊だけでは無いので一応旅は続けられるが、余裕が無くなった分、節約しなければならない。
 少女もそれは分かっているはずなのだから了承するだろう。
 執事はそう考えていたのだが、

少女「……その必要は無い」

 少女から返って来た言葉は執事の思いもよらない言葉だった。

執事「は? それはいったいどういった意味で?」

 執事が目を丸くして問いかけると、寡黙な少女はぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。

少女「……無理に大陸南部に向かう必要は無い。旗を掲げるならば、どこでも出来る」

執事「……ここに、本拠を構えると?」

 少女の真意を読み解いた執事が確認するように訊ねると、少女はこくりと頷いてみせた。
 だが、それが困難であることを知る執事は渋面を作らざるを得ない。

執事「しかし、ここはお嬢様には何の由縁も無い土地。お嬢様のお母君が生まれ育った大陸南部とは違い、頼りになる後ろ楯もありません。
 資金の枯渇した我々では人心を集めることも……」

少女「……もう、お金をばらまいた」

執事「……は?」

 本日二度目、執事は再び目を丸くした。
 少女は説明不足だと感じたか、椅子に座ったまま執事の顔を正面からじっと見上げながら、途切れ途切れに言葉を重ねていく。

少女「……ここの人たちは、困ってる。見た感じ、上に立って指導する人間が、いない。
 それに、みんな痩せこけてる。これではきっと、誰も大金を扱った事なんて、無い」

執事「それでは……」

少女「……すぐに、私たちに、泣き付いてくる」

 そう少女は言い置くと、話は終わったとばかりに椅子から飛び降りる。
 そしてトテトテと馬車の片隅にあるバスケットへ歩み寄ると、少女はそこから紅茶入りの水筒と二組の白磁のティーカップを取り出してテーブルへと帰還。
 少女はそのまま両方のカップに紅茶を注ぎ、唖然とした顔で固まる執事へと片方のカップを差し出すと、自分は平然とした様子で、もう片方のカップにゆっくりと口を付けたのだった。

 狼狽した様子の村人たちが少女たちの下を訪ねて来たのは、それから十分ほど後の事である。


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