3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/29(土) 00:45:54.99 ID:9UCC5NDe0
「ガブリエル!」
外への空想を巡らしている彼の脳味噌を急にストップさせる声が聞こえた。
振り向くと、閲覧室のドア越しに顔を真っ赤にした初老の女性が紫がかった唇の間からふーっ、ふーっと息を漏らしながら立っている。
「ガブリエル!!あんたって奴は一体何をしているんだい!?こんなゴミみたいな場所でクソ垂らして永遠に外眺めてるつもりだったのかい!?」
ガブリエルは言った。
「違うよ、エレオ先生。・・・『祈り』の時間に間に合うように仕度はしたんだ。そうしたら『ヒッチドワ』がやってきて僕の持っていた聖書を奪っていったんだ。」
ガブリエルの上目づかいの言い訳を聞いたエレオは
「はん!『ヒッチドワ』だって?!・・・・もうお前にはうんざりしたよ!あたしは正直な子しか救ってやれないね!!」
エレオは一度ガブリエルの頬をぴしゃっとはたきシャツの襟首を持つと、ネクタイが乱れるのもかまわず文字通り図書塔から引きずっていった。
「やめてよ、エレオ先生。長いズボンじゃ無いから太ももが地面に擦れて痛いよ・・・。」
「うるさいんだよぉ!この甘ったれ!臆病野郎!あんたはこの院の害虫なんだよ!」
まだ非力なガブリエルは思いきり引っ張るエレオに太刀打ちできない。
良いタイミングをつかんでとにかく立ち上がるところまでしか出来なかった。
「ネクタイが頸に引っかかって苦しいよ・・・・」
だがエレオは一切聞く耳を持たない。
「なんでこんな意地悪をするの・・・・?」
エレオに無理矢理連れてこられたのは、院長室だった。
院長室の前に来たときガブリエルははっと気がついてエレオに
「い、院長室は!駄目!駄目だ!本当に駄目だよ!!・・・お願い・・・・懺悔でも何でもしますから・・・」
と両目に涙をためながら懇願した。
「今更遅いんだよ・・・。あたしはお前みたいなウジ虫が・・・大嫌いなんだ・・・。」
エレオは意地悪く笑いながらガブリエルの顎をつまみ、彼女の顔に近づけた。
「でもね・・・よくお聞きよ・・・・あたしは・・・・ウジ虫の悲鳴を・・・聞くのが好きでね・・・・」
一つ一つ噛み締めるようにエレオは言った。
泣くのを堪えているガブリエルから目を離し、院長室のドアをノックした。
すると、中から男性の声が聞こえた。
「入りなさい」
エレオがドアを開けると、ガブリエルを部屋の中に押し込み
「レイムズ院長。ガブリエルが、『祈り』をちょろまかして閲覧室に居ました。」
聞いたことの無いような声色のエレオが、孤児院長レイムズに報告した。
両端には、香木を使った家具が置かれ中央には高級な繊維を使っているであろう赤い大きなカーペットが敷かれていた。
「おやおや、話には聞いていましたが。まさか私の所まで来てしまうとは。」
院長室の奥に陣取っているのは、特殊な加工を施した机だ。
そしてそこに座っているのは、レイムズ。丸眼鏡をかけて、祠祭のような服を着ている。
レイムズの書斎は寂れた雰囲気の孤児院と別の場所にあるんじゃないのかと言うほど着飾った部屋だ。
「違います!レイムズさん!僕は・・・『ヒッチドワ』に聖書を・・・」
「ガブリエル。・・・・中級の・・・そこらの魔術師が少し苦労するくらいの・・・そんな『召喚鬼(ミスルテ)』がこの院内に現れるわけが無いでしょう。大方、『祈り』が退屈で退屈でしょうが無かったんでしょう?」
「・・・」
「エレオ。」
レイムズが目で合図すると、エレオは満足げといった顔で院長室から出て行った。
「さて、ガブリエル。君は・・・この院のお約束は知っていますね?」
ガブリエルは、怪訝とした表情で机越しにレイムズを見る。
「・・・・ガブリエル。忘れてしまったなら・・・思い出させてあげましょう。この院のお約束はたった一つ。」
一拍おいてレイムズは
「『良い子でいる』、です。」
「レイムズさん、お仕置きはやめて・・・」
「ガブリエル、聞こえませんでした?」
「え・・・・?」
「復唱してください」
「あ・・・・」
「『良い子でいる』」
「い・・・・う・・・」
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