167:杏子編 ◆KbI4f2lr7shK[saga]
2013/07/23(火) 19:07:30.58 ID:bNVLxCUR0
「説明もそこそこに契約させたのかよ!」
怒り心頭に発して、キュゥべえの首を掴む。そのまま握り締めながら持ち上げた。
ほむらを魔法少女にした。それだけでも忌々しいのに、契約者本人にきちんと説明がなされていない。
マミのような切羽詰まった状況では無かったはずだ。
あたしたちが守っていた。一人で出歩かないように言い聞かせていた。
そこまでしていたのに……あたしたちが知らないところでほむらは契約した。
契約を防げなかった自分が腹立たしかった。
「佐倉さん、落ち着いて。私は戦いの事も身体の事も知っていたから」
ほむらがあたしの肩に手を置いて、凛とした態度で宥める。
ん? もしかして……あたしの早とちりか?
キュゥべえはまるで初めて説明したかのような口ぶりだった。
訊かなきゃ説明しないことも多いし、今回もそういうことだと思ったんだけど。
拍子抜けして、キュゥべえを握る手が緩む。ドサッと音を立てて着地した。
〈ふぅ……〉
酷い目に遭ったと言わんばかりの態度でキュゥべえが息を吐いた。
ほむらは気にした様子もなく、キューブ状のグリーフシードを幾つか拾い上げる。それを左手の甲に近づけ、紫色で菱形状のソウルジェムを浄化した。
「『魔獣』に、この『グリーフシード』……随分と様変わりしたものね」
ポポイと穢れたグリーフシードを空中にばら撒くほむら。キュゥべえは芸をするような動作で、全てを背中に取り込んでいた。
寂しげで遠くを見つめるほむらの瞳。この眼をよく知っている。病院で、マミの家で、一人でいる時のほむらが外に向けて眼だ。
人が変わったように見えても、本質は変わっていないのだろう。あたしは寂しく思いながらも少し安堵した。
「これで最後よ。……穢れきったソウルジェムはどうなるのかしら?」
〈浄化できなくなったソウルジェムは消滅するよ。その原理は解明できていないけどね〉
キュゥべえの返答に、ほむらは一瞬目を見張る。それから、嬉しそうなのか悲しそうなのか判断の付かない笑みを零した。
「……もういいわ。消えなさい」
ほむらが冷たく言うと、キュゥべえは呆れた様子で大人しく追い払われていった。
キュゥべえの気配が遠ざかると、ほむらから剣呑さが消える。
場を見守るように膠着していたあたしたちからも緊張が抜けた。
「暁美さん……どうして……」
魔法少女になってしまったの? そういう思いを込めてマミが尋ねる。
あたしもマミも、ほむらに魔法少女になって欲しくなかった。
なったことを否定するつもりはないが、理由ぐらいは聞きたい。それが共通の想いだろう。
それを知ってか、知らずか、ほむらは寂しげな笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。それでも取り戻したい人がいるの……」
取り戻す……? 誰を失ったって言うんだ?
「そう……」
マミはそれだけで黙り込んでしまった。
心当たりでもあるのか? 視線を向けても、黙って首を横に振るばかり。納得できるかよ……っ。
思わず口に出そうとしたところ、今度はさやかが後ろからあたしの肩を抑え込んだ。
「だから落ち着きな、って杏子。……ほむらが不安になってるよ」
小声で注意された。ほむらを見ると、確かに瞳の光が揺れている。
今までに比べれば表情の変化は少ない。でも、よく見た不安げなほむらと重なって見えた。
ほむら……。心の中で呟いて心を落ち着ける。落ち着かないといけない……そう思った。
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