197:まどか編第三章 ◆KbI4f2lr7shK[sage saga]
2013/07/27(土) 23:56:21.59 ID:u81ECVb60
「全てが同じ時間軸が存在することはありえないわ。それは同様に、他の時間軸の干渉が無くても、結末が全く違うこともありえるということでもある」
そこまで聞いてようやく一つの可能性に気が付きます。
「もしかして……わたしが知らない時間軸のほむらちゃんの祈りなの?」
単純明快な答え。概念化したことで、あらゆる時間軸の過去から未来まで見通したことがあるわたしは、そこで知った時間軸が全てだと思い込んでいたようです。
「ええ。その通りよ」
ずっと話していた‘ストレート髪のほむらちゃん’は正解に辿りついた教え子に向けるような笑みを浮かべます。
「正確には、あなたが概念となった世界に、新しく生まれた私の祈り。
意図せずとも時間軸同士は影響し合うということなのでしょうね……。
その時間軸の‘私’はあなたを喪った哀しみを覚えていたわ」
ほむらちゃんは少し俯きました。
時間遡行の能力を失っても、別の時間軸にまで届く哀しみを抱えていた‘ほむらちゃん’。
そんなにもわたしを想っていてくれた……その事実に喜び半分、悲しみ半分です。
なぜならわたしは、概念化した後、幸福な気持ちに包まれていたからです。
「だから‘私’は祈ったの。『まどかを人に戻す力が欲しい』って。……『人に戻して欲しい』じゃない辺り…‘私’らしいわ」
ほむらちゃんは自嘲します。結局……わたしは‘ほむらちゃん’を苦しめているようです。
「結果がこれよ。‘私’の存在枠をまどかに渡す。それがここに集められた‘私’に与えられた主な能力」
そう言って顔を上げたとき、ほむらちゃんの表情はもう元に戻っていました。
「存在枠?」
「そうよ。まどかが人の世界に戻るためには、代わりに‘私’がまどかの立場に入る必要があるの」
つまりそれは、わたしの代わりに‘ほむらちゃん’が魔女を消し去る概念になるということでした。
「じゃあ……、‘二人のほむらちゃん’が消えたのは……」
尋ねる声が震えます。
「……人として存在する権利を失ったからよ」
躊躇いがちに……それでもほむらちゃんはきちんと言葉にしてくれました。消えた……それは言葉通り‘暁美ほむら’という個人の消滅だったのです。
「こんなのあんまりだよ……。ほむらちゃん、酷過ぎるよ……」
想像以上に酷い結果に、わたしは顔を覆い俯きます。‘ほむらちゃん’を責めたくはないのに……責めずにはいられません。
わたしはただ、ほむらちゃんの、皆の祈りを無駄にしたくなかっただけなのに。魔法少女の希望を絶望で終わらせたくなくて…あの祈りをしました。
それなのに、終わりのない孤独から救いたかった‘ほむらちゃん’が、誰にも記憶されることのない存在へと変わろうとしていたのです。
最初の、‘三つ編みのほむらちゃん’から口付けを受けた時点で、‘ほむらちゃん’の消滅は決定事項となっていました。
今ここでわたしが拒絶しても、‘ほむらちゃん’の概念化は避けられません。
それどころか、わたしと‘ほむらちゃん’の祈りは中途半端に叶えられ、予測のつかない世界へと造り変えられるでしょう。
悪化はしても改善はありえないのは確かです。……わたしに選択肢は与えられていませんでした。
「分かっているわ……それでも私はあなたに人として生きて欲しかった」
‘ストレート髪のほむらちゃん’がハンカチを取り出して、わたしの涙を拭います。
もう一方の手で以前わたしが渡した二本の赤いリボンを手に取って渡そうとします。今わたしの手の中で赤と紫、二色二組のリボンが重なり合ったのでした。
「ほむ……ほむらちゃん……っ」
声を詰まらせるわたしを宥めるように、ほむらちゃんが頭を撫でます。それから慈愛に満ちた、とても優しい笑顔でわたしの顔を覗き込みました。
「私はまどかを……あなたを好きでいられて幸せよ。……。ありがとう」
絵になるような笑顔のまま重ねられた唇。それと同時にほむらちゃんの身体は沢山の光の粒になりました。
「っっっ!」
分解されたほむらちゃんの光がわたしの中に入ってきます。光を浴びた赤いリボンはわたしの手から離れ、髪を結い上げて行きます。
流れ込んできた力はとても強力で、一瞬だけ大きく真っ白な翼となってからわたしの体内に宿ります。
それと同時にわたしはその場に崩れ落ちたのでした。
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