92:>>86 続き ◆KbI4f2lr7shK[sage saga]
2013/05/06(月) 18:03:06.26 ID:uNFuRhiC0
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傾けられたベッドの上から空を見上げる三つ編みの少女。
開こうとしたまま手を添えられた本は閉じたままで、細い眼は遠くに向けられている。まるで消えてしまいそうなほど、儚い姿をしていた。
「よう」
あたしは高層の窓の外側から身を乗り出し、手を挙げて所在を告げる。
視線をあたしに向けた少女はビクと身体を僅かに跳ねさせた。
「さ…佐倉さん!?」
慌てた様子の少女の前で部屋に飛び込む。少女は一瞬固まっていたが、すぐに持ち直した。
ここは高層に位置している部屋だが、あたしが窓から侵入するのは初めてじゃないからだろう。
「えと…危ないので窓から入るのは辞めてもらえませんか…?」
心配そうにあたしを少女は見ている。
「平気平気。慣れてるんでね。っと。ほむら、これやるよ」
そう言って小脇に抱えていた丸い物をほむらに渡した。
「え…ありがとうございます」
反射的に両手で受け取ったほむらは、それを顔に近づけ、じーと見ている。
抱きかかえるのに丁度いいぐらいの大きさの縫ぐるみだった。ボールのように丸いが、△の耳や両手足、尻尾がついている。そして顔の位置には丸い目とωの形をした口が描かれ、可愛らしい姿をしていた。
「……ネコ…あ。…ふふふっ」
縫ぐるみに着いた2つ折りの厚紙のタグに気付いて、それを開いたほむらが口を押えて笑う。他には聞こえないような小さな声で「かわいい」と零したのが分かった。
その様子にあたしも釣られて口元が緩む。
「気に入ったかい?」
あたしはベッドの傍に寄せた椅子を寄せ、その上で片足だけ胡坐を掻いた。
「はいっ!」
満面の笑みで縫いぐるみを抱き込むほむら。見てるこっちが幸せになるような、無邪気な笑顔だった。
それだけ喜んでもらえると、ゲーセンで取って来た甲斐があるってもんだ。
頬が緩んでしまったことに気付いて、あたしは心持ち普段の表情を取り繕う。
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