過去ログ - 番外個体「笑顔に会いたい」
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24:2[saga sage]
2013/03/18(月) 21:02:42.37 ID:jlq0P1830
頬に当たる日射の刺激を受けて色のない肌がチリチリと微弱な痺れを感じる。
刺激によって増しつつあるほてりが健康的な顔色と縁遠い彼の顔面の不健康さに強調する。
横目でドア付近の座席を盗み見れば、ちょうどいい感じで日陰になっており、
紫外線を浴びなくてよい仕様に仕上がっているそちらの席のほうが一歩通行には特等席に思えた。

生命活動に必要な最低限の力を除き、向けられたありとあらゆるベクトルを自動で『反射』していた能力機能が失われたのは昨年の八月末日。
一六にもなった年ごろになって初めて、少年は『人並み』の外部刺激を受ける日常を過ごすことになった。

決して悪いことばかりではない。
季節ごとによって姿を風の感触や、暖かさに合わせて服を着脱する習慣は目新しい発見だった。
雑音だと思い込み閉ざしていた都市に溢れた人々の生活音は、思いのほか心を落ち着かせる音なのだと知った。

小鳥の囀りとともに始まる一日。
ドアの向こう、廊下を挟んだ保護者の寝室からたたましく鳴る目覚ましい時計。
ぱこりぱこりと軽い同居人の誰かが擦るスリッパの底。
眠気の中で曖昧に鼓膜を揺らして交わされる朝の挨拶。

どれもこれもが、うるせェと呟いて無意識の内に耳を傾けてしまう、命の脈動にも似た彼を取り巻く生活音たち。

夏に失い、秋冬と乗り越えて、春を迎えた今。ある程度の外部刺激にようやく体が慣れつつある。
それでも、紫外線不足等が原因で白い髪と白い肌、赤い瞳を得た少年にとって、太陽の強い日差しはなかなか馴染めない事柄の一つであった。

余談だが。
刺激に肌が負けないように、と元科学者、現ニートの芳川桔梗から処方された薬用クリームを就寝前に塗るのが、
彼の身内にしか知られていない一方通行の隠された習慣であったりする。

(くじ運ねェな、俺)

教室のいちばん目立つ所にある時計の針は、授業終了十五分前を指していた。
この紫外線地獄と強制子守唄から解放されるにはまだ先のようで。

きっと、このような時に、気を紛らわせるようにアイツは軽い口調で言うのだろうか。

(あー。不幸だ)

くじ運の悪さを今更になって後悔しているあたり、随分と一方通行も十代の少年「らしく」なったようだ。

どうでもいいと些細なことを面倒くさげな顔で切り捨てていたのが数か月前だと考えれば、
驚異的な速さで些細なことに興味を持つような余裕を身につけたと言えよう。


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