過去ログ - 【咲安価】 京太郎「……変、身ッ!」 2クール目【仮面ライダー】
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37: ◆B6xkwd67zxGJ[saga]
2013/02/07(木) 23:54:55.61 ID:mzTTYNPmo

 その人は。
 言うならば、こうなりたいという目標だった。
 灼が目指す、その先であった。

 高校一年生にして、当時無敗であった高校を破り、レジェンドと呼ばれる。
 その強さを見たときに。凛としたあり方を見たときに。
 鷺森灼は、これだと思った。

 そして、インターハイに出場した彼女――赤土晴絵が。
 再び奈良に戻ったその時に、勇気を出して会いに行った。

 ひょっとしたら――いや確実に――敗れた事に残念がっているかもしれない。
 自分は勇気を貰った。その姿に。
 だから、彼女が今度は苦しいのなら。辛いと思っているのなら。
 一声かけて、伝えたかった。

 この街におかえりなさい。あなたは胸を張って良いんだと。
 破れてしまったとしても、彼女の雄姿はこの目に収めたと。
 一時どうあっても、これからもがんばって欲しいんだと。

 それは子供なりの「自分がやらなければ」という思い込みで、実際はただの迷惑かも知れない。
 だけどそれでも何か、いわゆる恩返しのような形のものをしたかったのだ。
 その時、鷺森灼は魅せられていた。彼女の打ち筋に。

 そんな出会いのあと、貰ったネクタイ。


 あれから――彼女に出会ってはいない。

 子供麻雀部に通っていたというのは知っているが、そんな彼女は見たくなかった。認めたくなかった。
 自分が憧れにした彼女は、魅せられた彼女は。
 凛として、一人でも、周囲の期待を背負って歩き出せる。そんな人だったのだから。
 地に落ちた赤土晴絵に会う気にはなれなかった。

 或いはそれには――僻みも含まれているのだろうか。
 人の輪に入れない自分。麻雀を通して戦う事はあっても、誰かと気分を共にする事はない自分。
 それとは違うんだと、見せつけられているような気もしたから。

 或いはまた、今となってはそこに――後悔もある。
 ひょっとしたらあの時の自分が言った、「がんばって」という言葉が。
 それが却って彼女を追い詰めてしまったのではないか、と。
 こうして、今。この街で暮らし始めて。灼は思う。
 「頑張って」という言葉は。期待は思った以上に重いものであるのだと。


 スマートブレイン学園への入学の引き換えは、麻雀部に入れと言うものだった。

 今更、麻雀か。  
 そうも思った。そこを駆けても、灼の望む姿にはなれないのだと思ってからは、麻雀と離れていた。
 だけれども、仕方なかった。

 未確認生命体による襲撃の後。その脅威は収まったと言えども、また何があるかは分からない。
 祖母の為にも、安全なこの街で暮らした方がいい。
 生まれた場所を離れるという事には抵抗など――なかった。それは弱いから。

 結局今では、幸いながら新しいボウリング場を立てる費用まで出してもらった為、以前と変わらない生活を送っている。
 だけれども――思う。

 期待と言うのは、重いものだと。


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