5: ◆epXa6dsSto
2013/02/09(土) 19:22:57.27 ID:juBpRnU+0
「まだまだだぞ、律」
また手厳しい事を澪が言ってくれる。
でも、視線を合わせた澪の顔は優しく微笑んでいた。
私と二人きりの時、ごくたまに見せてくれる優しい笑顔だった。
いつの間にか私も軽く笑顔になりながら返していた。
「ひっでーな、澪。
私だって、まだ歌の練習を始めたばっかりなんだぜ?
もうちょい優しい言葉を掛けてくれたっていいんじゃないか?」
「そうしたいのは山々なんだけどさ、卒業式まであんまり時間が残ってないだろ?
ビシビシスパルタ方式でやらせてもらうぞ?
大体、歌の練習を始めたばっかりって言うんなら、
一年の学祭の頃の私だって同じ状況だったんだからな?」
「あー……、確かにあれはそうだったな……。
学祭の三日前に唯が喉を嗄らしちゃったんだよなー……。
それから澪の歌の練習が始まったわけだし……。
今、考えると、あれはちょっと無茶させ過ぎだったかもな。
あの時はお世話になりました、澪しゃん……」
「やっと分かってもらえて嬉しいよ、律。
それに比べれば律の場合はまだ時間もあるし、
私達も一緒に歌うわけなんだから多少は気が楽じゃないか?」
「どう……かな……?」
私は呟いてから考えてみる。
澪の言ってる事は全面的に正しい。
二年前の澪の状況に比べれば、私は相当恵まれてるって言ってもいいだろう。
だけど、そう考えても、全然気は楽にはならなかった。
観客は梓一人なのに、学祭とは比べ物になんかならないのに、私は緊張しちゃってる。
学祭より、梓一人に贈る曲を演奏する事に緊張しちゃってるんだ。
梓は大事な後輩だから。
生意気で私の事を敬ってる様子も一切無いけど、だからこそ、大事にしたい後輩だから。
梓には安心して高三の生活を楽しんでほしいから――。
不意に。
澪が笑顔で私の手を取って、着けていた手袋を外した。
そのまま自分の胸元に私の手を置かせる。
澪の大きな胸の柔らかさを感じる。
勿論、澪は私に自分の胸を触らせようとしたわけじゃない。
正確には澪の左胸の鎖骨寄りの方――、
心臓がある位置に私の右の手のひらは置かれていた。
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