119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/17(日) 00:26:45.46 ID:bWGm8aPso
結局、明日香が正しかったのだ。奈緒は僕を兄だと知って僕と付き合っていたのだから。
ただ、奈緒の言葉を信じるなら、それは僕を苦悩させようという彼女の悪意から起こした
行動ではない。そういう意味では明日香は間違っていたということもできた。今の僕にと
ってどちらの方がより心が休まるかという問題になると、必ずしも奈緒の善意が判明した
ことの方が僕の心が休まるかというと、そうではない。
明日香は僕とは血縁関係にはないけど、それでも彼女と付き合い出すときには兄妹の関
係であることにだいぶ悩んだ。玲子叔母さんも僕とは血が繋がっていしない、本当の叔母
ではないのだけど、明日香は僕と叔母さんが関係したとしたら世間体が悪いと言った。
奈緒に悪意がないにしても、本当の兄貴だと知りながらもなお僕の彼女になろうとした
彼女の心の動きは、今の僕には理解できなかった。僕だって奈緒が本当の妹だと知ったと
きには悩んだし、無邪気に兄との再会を喜ぶ彼女の心情に嫉妬だってした。でも、どんな
に悩んでもどんなに奈緒を恋しく思っても、実の妹だとわかった奈緒をそのまま黙って彼
女と付き合うなんていう考えは思いつきもしなかった。それは真実を知った奈緒が僕自身
がそうであったように傷付くことを恐れたせいだけど、それだけでなく実の兄妹が恋人同
士になれるなんて思いもしなかったということもあったのだ。
「お願いだからあまり悩まないで。お兄ちゃんが明日香ちゃんのことを好きになったのな
らそれでもいいから。さっきお兄ちゃんが言ってたじゃない? あたしが妹だとわかる前
だったら明日香ちゃんのことは振っていったって。あたしにはそれだけで十分だから。こ
れ以上お兄ちゃんに何かしてほしいとか望まないから」
ここまで比較的冷静に話してきた奈緒は今では必死の表情で僕に言った。
僕は奈緒に何と言っていいのか言葉が見つからなかった。しばらく沈黙が続いた。
「この話はとりあえずおしまい」
奈緒が俯いたままで言った。
「そうだね」
僕には他に言うべき言葉は見つからなかった。
「でも、お兄ちゃんには悪いけど自分の気持ちには嘘はつけないから」
僕は黙ったままだった。
「だって好きなんだもん。お兄ちゃんが・・・・・・奈緒人さんのことが好きなんだもん。お兄
ちゃんに駄目って言われたって自分ではどうしようもないの」
「・・・・・・実の兄妹なんだぜ」
「わかってる。さっきお兄ちゃんが言ったとおりだよね。あたしはお兄ちゃんとは結婚も
できないし子どもだって産んであげられない。そんなことはわかってる」
「奈緒・・・・・・」
「いくら話してたって解決するようなことじゃないね。もうおしまい。それに今ではお兄
ちゃんには明日香ちゃんがいるんだし」
「奈緒」
僕は呆けたように繰り返して彼女の名前を呼んだ。
「じゃあ、約束どおり我が家の歴史をお兄ちゃんに説明しますか」
奈緒は明るく言ったのだけど、彼女が無理をしているのは明らかだった。
「麻季さんのこと、あたしたちのママのことを話そうか」
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