159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/27(水) 23:56:55.51 ID:/HL4si7bo
「パパとママって今夜も結局お互いに話をしなかったよね」
夕食後に二階に上がった明日香は自分の部屋に行かずに僕の部屋についてきて、ベッド
の上に座ってそう言った。
一見賑やかな仲の良い家族の団欒のように見えたかもしれない。父さんも母さんもよく
喋った。でも両親は子どもたちにはよく話しかけていたけど、お互いに会話を交わすこと
はなかった。今までなら見過ごしてしまったらろうけど、ここ最近の両親の不穏な様子を
気にしていた僕と明日香にはすぐにわかった。
「そうだったね」
「お兄ちゃんは、パパとママが離婚しても一生あたしと一緒にいるって言ってくれたけど、
それでもパパとママが別れちゃうのは嫌だなあ。いつまでも四人で暮らせればいいのに」
明日香がぽつんと言った。両親のことや叔母さんが襲われたこと、それに元彼である池
山の危篤。年齢よりませているとはいえ、ここ最近の出来事はまだ中学生の明日香が背負
うには重過ぎる。
僕は黙って明日香の肩を抱いた。いつもなら柔らかく寄り添ってくる明日香は、今は身
体を固くしたままだった。
「パパとママが別れたらさ、お兄ちゃんとパパが一緒に暮らすのかな? あたしはママと
一緒だよね、きっと」
「今からそんな心配しないでもいいよ」
「この家って再婚してから買ったんだって。離婚したらどっちが家を出て行くんだろ」
「さあ。僕にはその辺の記憶はないし。それに考えたってしかたないじゃん。まだ決まっ
たわけじゃないんだし」
「お兄ちゃんはママたちが離婚しても平気なの?」
「平気じゃないって! でもさ、何度も言うけど決まった話じゃないし、夫婦喧嘩なんて
よくある話じゃないか」
「何かそれだけとは思えないの。嫌な予感がしてしょうがない」
「まあ、レイナさんっていう人のことを調べてみようよ。何もわからずに心配していても
しかたないし」
「・・・・・・うん」
女帝や池山、それに玲子叔母さんの件からは手を引けと平井さんに言われたのだし、今
は父さんたちの不仲の理由を探った方がいいのかもしれない。それに奈緒は自分の知って
いることとは全て話す気になっているようだった。
「博之、大丈夫かな」
明日香が話題を変えたけど、その質問にも僕は答えられなかった。明日香の悩みに対し
て今の僕はあまりに無力だった。最近の僕たちの身辺で起こった出来事は急すぎる。
僕たち家族の過去。それと明日香が一時期はまっていた無軌道で逸脱した行動。
その関連性はよくわからないけど、それらはほぼ同時に動き出して僕たちを翻弄してい
る。仮に関連があるとすれば、それは女帝絡みなことは間違いない。一見、接点はないよ
うだけど、仮に女帝が有希のことだとすればいろいろと二つの話は交錯してくる。
「明日、奈緒にレイナさんのことを聞くよ」
僕は明日香に言った。
「うん。何か体が震えて眠れないの。今日もお兄ちゃんと一緒に寝ていい?」
「いいよ」
明日香がようやく少しだけ笑顔を見せてくれた。
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