186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/04/07(日) 00:04:47.29 ID:ANCdE4y9o
「おはようお兄ちゃん」
翌朝の約束の電車で奈緒が僕に声をかけた。
「おはよう」
奈緒は随分と元気そうに見えた。あのときの告白で吹っ切れたのだろうか。仲違いする
前の恋人同士だった頃の、あるいは再会したばかりの兄妹のころのような曇りのない笑顔
で奈緒は僕を見た。
車内にたむろしている男子高校生たちの視線が奈緒に集中していることに僕は気がつい
た。これだけ可愛らしければ無理もない。僕だって奈緒の兄でなければ奈緒のことをひた
すら盗み見ていただろう。それでもこの朝、僕はそういう想いに対して必要以上に悩まな
かった。やはりどんなに可愛くても妹は妹だ。奈緒が実の兄に対して異性としての愛情を
抱いていると告白してくれたとしても、奈緒が僕の妹であることには変わりはない。
僕は自分に自信を持った。多分、もう僕は揺らがないでいられるのだろう。明日香の愛
情が僕を今の自分の居場所に繋ぎとめてくれる。ついさっき、僕を自宅から送り出してく
れた明日香のあの曇りない笑顔が。
奈緒の僕に対する恋心だって多分一過性のものなのではないか。悲劇的な別離と奇蹟的
な再会が、思春期の奈緒の心を必要以上に揺さぶった結果、僕のことを過度に美化してし
まっているのだろう。奈緒との再会は確か僕たち兄妹にとっては劇的な偶然だったし、こ
の先も僕は奈緒のことを大切な妹として一緒に歩んでいくつもりだった。
でも奈緒の言うように兄妹と恋人の関係を同一視するような思考は間違っている。僕も
奈緒と同じように彼女との関係に悩んでいただけにその想いは理解はできたけど、明日香
と恋人同士になった今では、その考えは間違っていると思った。
「何考えているの」
「いや・・・・・・別に」
言葉できることではなかった。奈緒ははっきりと実の兄である僕のことが好きだと言っ
た。そして、明日香と僕のことも仕方がないって。
これ以上、奈緒に何を求めることができるのだろう。僕を嫌いになれとか、もうおまえ
とは会えないとでも言えるのか。
『パパもママもいらないよ。僕は奈緒と二人でずっと一緒に生きるんだ』
発した言葉を取りやめることはできない。それにあの言葉を思い出してから僕はそのこ
とを後悔したことは一度もなかった。
「変なの。あたしに遠慮しなくたっていいのに」
「遠慮っておまえ」
「明日香ちゃんのことを考えていたなら正直に言えばいいのに」
奈緒は元気そうにいたずらっぽく笑って言った。
気にし過ぎなのだろうか。奈緒の笑顔は少し無理をしているように見える。わずかな時
間を経ただけで、僕は奈緒の感情を理解できるようになってしまったような気がする。そ
れは錯覚かもしれないけど。
奈緒が僕の腕に手を置いた。恋人同士の頃ならなんてことはない仕草だ。
それでもそのとき僕はそのときの奈緒の何気ない仕草に動揺した。僕には明日香がいる
というのに。
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