232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/09(日) 00:02:31.46 ID:1Ed2VqjZo
数時間にも及ぶ時間、ひたすら麻紀おばさんの話を聞かされて全容を把握したあたしは、
混乱しながら奈緒の家を出た。
愛情や憎悪、そして無理解と誤解。嫉妬。
そういう人間同士の感情の相克については、あたしは何となく若い男女の特権だと思い
込んでいた。もちろんパパの怜奈叔母さんに対する歪んだ愛情や、実の娘であるあたしに
対する冷酷な情欲について忘れたわけではなかったけど、それは変態的な嗜好をもつパパ
の特殊で例外的なケースだと考えていた。
でも事実はそうではなかった。過去の登場人物たちはみな普通の人たちだったのだけど、
その普通の人たちはいろいろと感情をぶつけ合って軋轢を生じさせ、結果として罪のない
自分たちの子どもたちの生活を歪めてしまったのだ。
あたしは他者を気遣うことなくひどいビジネスを運営している。自分の感情を逆なです
る人やあたし自身の利益に反する人に対して、容赦したことはない。さすがに無関係の人
間を巻き込むことはなかったけど、不用意にあたしのビジネスに踏み込んでくるような人
間に対しては、それが善意の大人の女であっても襲わせるような指示を気に病むことすら
なく出してきた。
そのことに全く罪の意識がなかったかというとそれは微妙だった。ためらいこそしなか
ったけど、何の感慨もなく冷酷に遂行してきたわけではない。むしろそのことに怯む自分
を一生懸命に宥めながらここまで来たという方が正しいかもしれない。
でも今でははっきりと目が覚めた。直接的な暴力に訴えないにしても、普通の生活を送
っている普通の人が、自分の感情を救うためにどれだけ残酷になれるかという実例をあた
しは麻紀おばさんから聞かされたのだ。
麻紀おばさんの行動は徹頭徹尾身勝手なものだった。そして麻紀おばさんの話が真実で
あるなら、怜奈叔母さんや鈴木のおじさまの行動だってそうだ。
彼らの行動によって奈緒と奈緒人さんの人生は狂わされた。そもそも奈緒と奈緒人さん
が別れがたいほどに惹かれあう兄妹になったことすら、おばさんとおじさまの身勝手な行
為の結果なのだけど、この二人はそれにとどまらず奈緒と奈緒人さんを残酷に引き剥がし
た。
あたしやパパのような選ばれた人間だけが世間体を気にしない行動をとれると思ってい
たのだけど、世界はそんな単純な原理で構成されてはいなかった。今のあたしたちの人間
関係は、善意に溢れ尊敬すべき人物に見えている麻紀おばさんたちのエゴによる行動の結
果だったのだ。
麻紀おばさんの家で過ごした数時間はそう理解できただけでも無駄ではなかった。
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