243:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/12(水) 23:20:07.37 ID:kCQODl6lo
「ごめん」
ようやく女さんが小さな声で言った。
「いったい何があったの?」
兄友も女さんも僕への謝罪どころではないらしいことは理解できた。どうも二人の痴話
げんかの巻き添えを食ったみたいだ。二人は最初から本気で僕に謝る気があったのだろう
か。
僕はため息をついた。謝罪なんかいらないから放っておいて欲しかった。今の僕にはこ
の二人の仲を心配している余裕なんかない。
「兄友とけんかしちゃった」
やはりそうか。僕に謝るというより兄友への意趣返しのつもりで、女さんは僕に気があ
るような発言を繰り返していたのだろう。兄友の気を惹くために。以前の僕だったらその
屈辱に耐えられなかっただろうけど、明日香と奈緒のことや自分の過去のことで頭がいっ
ぱいだった今の僕には、女さんのその行動はひたすら面倒なだけだった。
「それならさ。僕のことなんか引き合いに出して兄友の気を惹くような真似をするよりか、
ちゃんと兄友と話し合ったほうがいいんじゃないの」
僕の言ったことは正論だったと思うけど、女さんは不思議そうに僕を見た。
「何かさ」
「うん?」
「何か・・・・・・奈緒人君ってわずかな間に本当に人が変わったね」
彼女の言葉に僕は意表をつかれた。というか基本的にヘタレで流されやすい性格は昔と
変わっていないと自分では思っていた。奈緒のことも明日香のことも玲子おばさんのこと
だって。
「そんなことないと思うけどな」
女さんは真面目な顔で首を振った。
「ううん。ずいぶんと大人の男の人みたいになったよ。何があったのかは知らないけど」
「別に何もないんだけどな」
「前に奈緒人君があたしに告白してくれたことがあったじゃない?」
また、その話か。正直に言うとうんざりだった。僕はあのとき彼女に振られたことは自
分の中ではとうに消化していた。それは奈緒との出会いによるところが大きかったけど。
そして女さんも僕を振ったことを兄友にも誰にも喋らないでいてくれていたのに。今さら
何であの話を蒸し返されないといけないのだろう。
「あのさ。僕はそんなに君に悪いことをした? 君に振られてすぐにおとなしく引き下が
ったじゃん。付きまとったり未練がましいこともしなかったはずだけど。何で僕の告白の
ことを兄友への意趣返しに使われなきゃいけないの?」
「違うよ」
「だってさっき・・・・・・」
「告白してくれたときの奈緒人君が今の君だったら、あたしはきっと君の告白をOKした
と思うよ」
「何言ってるの・・・・・・」
思いがけない女さんの言葉に僕は狼狽した。
「嘘じゃないって」
女さんが顔を赤くして言った。
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