27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/22(金) 23:39:06.26 ID:/e7W3Teeo
「怜菜って自殺したんだと思う」
麻季は真面目な声で静かに言った。
これまで考えもしなかった言葉に僕は一瞬動揺したのだけど、すぐにそんなはずはない
と思い直した。
そんなわけはない。怜菜はか弱そうな外見とは裏腹に芯の強い女性だった。それはただ
彼女の言葉だけからそう判断したわけではない。僕は彼女の一貫した行動からそう確信し
ていた。
怜菜は離婚後に配偶者のいない状態で出産した。同じ病院に出産のために入院している
母親たちと比べたってつらいことは多々あったはずだった。でもそんなことは怜菜から僕
にあてた最初で最後のメールには何も言及されていなかった。僕は今では一語一句記憶し
ている彼女のメールの文面を思い出した。
『お互いに伴侶の不倫を慰めあっているうちに恋に落ちる二人。そんな昼メロみたいなこ
とをわたしは期待して先輩をあの喫茶店に呼び出しました。そして、先輩はわたしが旦那
と別れるなら自分も麻季と別れるって言ってくれました。もちろんそれは先輩がわたしに
好意があるからではないことは理解していました』
『でも奈緒人君への愛情を切々と語る先輩の話を聞いているうちにあたしは目が覚めまし
た。奈緒人君から母親を、麻季を奪ってはいけないんだと。そしてその決心は自分の娘を
出産したときに感じた思いを通じて間違っていなかったんだなって再確認させられたので
す』
『本当に長々とすいません。あたしの先輩へのしようもない片想いの話を聞かされる義理
なんて先輩にはないのに。でもわたしは後悔はしていません。そして今では先輩が麻季と
やり直そうとしていることを素直に応援しています。生まれてきた子がわたしをそういう
心境に導いてくれました』
『これでわたしの非常識なメールは終わりです。先輩・・・・・・。大好きだった結城先輩。こ
んどこそ本当にさようなら。麻季と奈緒人君と仲良くやり直せることを心底から祈ってま
す』
それは何度思い起こしてもつらい記憶だった。生前の怜菜に最後に会ったとき僕が彼女
の想いに少しでも応えていれば、また違った現在があったのだろうか。そうしていれば、
怜菜は死ぬことなく奈緒を抱いて微笑んで僕の隣にいてくれる現在があり得たのだろうか。
「君が何を考えているのかよくわからないけど、怜菜さんの死は自殺じゃなかった。暴走
してきた車から奈緒を守って亡くなったんだ」
「あたしだってそう思っていたんだけどね。そうとも言えないんじゃないかって考えるよ
うになったの」
「・・・・・・もうよせ。これ以上僕に君のことを嫌いにさせないでくれ」
「それは・・・・・・あたしは信じてるから」
「何を言ってる」
「あたしが何をしても博人君は、結城先輩はあたしのことが好きだって」
「本当に何言ってるんだよ。もうよそうよ。昔のことは昔のことに過ぎないだろうが。君
は鈴木先輩と再婚することにしたんだろ?」
「うん。ごめんね」
「謝るな。僕もこの先の人生は理恵とやり直すことに決めた。だからもうこれ以上怜菜さ
んのことは蒸し返さないでくれ」
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