284:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/04(木) 23:41:39.38 ID:j39CgiDpo
その頃あたしは卒業に必要な単位を取得し終わっていたし、希望していた企業からも内
定が出ていたせいで、同じく余裕のあった彼と卒業旅行として海外にでも行こうかと相談
していた。
久し振りのゼミのために登校したあたしは、久し振りに会った彼と二人で連れ立って大
学の構内を出た。社会人としての人生の出だしが順調だったせいで心が軽かった。何もか
もうまく行っていたし今日はいい天気だ。
「で、どうする」
彼が不器用にも照れた表情でぶっきらぼうにあたしに言った。
「どうって? 何が」
「旅行だよ、旅行。唯と二人で海外なんて初めてじゃん。俺なんかわくわくして来たぜ」
「バカじゃないの」
あたしは彼に微笑んだ。「今さら何言ってるのよ」
「だって海外に一緒に行くのは初めてだろ。まあ、就職してからは何度だって一緒に行け
るんだからそんなにはしゃぐことはねえかもしれないけど」
彼もあたしと一緒で企業志向だったからゼミのほかの友人たちのように司法試験を受け
る気はなかったようで、あたしと同業他社の上場企業に内定していた。きっと就職してか
らも彼との関係は続くのだろう。だから彼の言っていることは正しかった。
あたしは笑って答えた。
「そうかもね」
彼は少し不満そうな顔をした。あたしの淡白な反応が不満だったみたいだ。
「そうかもねって、そうだろ?」
彼はいきなり立ち止まって真面目な表情であたしを見た。
「何、真面目な顔してるの・・・・・・え?」
いきなり彼に両肩に手を置かれたあたしは戸惑った。
「俺さ。唯と一生一緒にいたい。唯、俺と結婚してください」
プロポーズはスクランブル交差点の真ん中だった。彼は凍りついたあたしを抱き寄せて
歩道の方に引っ張っていった。そのままそこにいたら車に轢かれてしまう。
ここは泣いてもいい場面だった。それはあたしがずっと望んでいたことでもあったから。
「はい」って答えよう。それでこの人と一緒の人生を歩んで行こう。
あたしが気を取り直して彼に返事をしようとしたときに携帯が鳴った。
このタイミングかよ。
あたしはそう毒づいて電話に出た。
『唯? 唯なの』
慌てたような母さんの声が響いた。
『うん。お母さん、どうしたの』
『大変なの。電話があったのよ。奈緒人と奈緒ちゃんが児童相談所ってとこで保護されて
るって。麻季さんがいなくなっちゃったんだって』
あたしは目の前の彼のことを忘れ狼狽した。
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