過去ログ - ビッチ・2
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290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/04(木) 23:46:06.51 ID:j39CgiDpo

 そして兄貴は理恵さんと再会した。この二人が愛し合うまでは時間は不要だった。

 あたしと兄貴の仮想夫婦生活もこれで終わりた。彼氏を放置し、内定まで蹴ろうとして
いたあたしの一時の熱情にうなされたような日々は終ったのだ。

 自分でも意外なことにあたしは恐れていたほど気落ちすることはなかった。兄貴が麻紀
さんの裏切りから立ち直ろうとしているのだ。兄貴のためにあたしができることはまだあ
ったのだから。

 あたしは玲子ちゃんと連絡を取り合い、兄貴と理恵さんの再婚に関してお互いの両親に
根回しした。別に兄貴の隣にいる女があたしである必要はないのだ。というよりあたしが
兄貴と一緒に奈緒人たちと暮らす選択肢なんか初めからなかったのだ。あたしが勝手に夢
を見ただけだ。兄貴と理恵さんがお互いを愛し合っていることは確実だった。それに理恵
さんは麻紀さんとは違う。自分でも不思議なくらいあたしは兄貴と理恵さんの再婚を祝福
できた。

 兄貴と子どもたちさえ幸せになれるならそれでいい。

 この頃になると奈緒人と奈緒は兄貴に対するのと同じくらいあたしに心を許してくれる
ようになっていた。逆に言うと麻紀さんに傷付けられた心の傷が癒えてきていたのだろう。
子どもの立ち直りは思ったより早い。

 この子たちのことを考えれば、理恵さんが兄貴と結婚してくれることが二人にとっても
ベストな選択肢だとあたしは自分に言い聞かせた。

 兄貴への自分の思慕は外に対して表現することは許されないけど、奈緒人と奈緒に対す
る愛情は許される。兄貴にはもう理恵さんがいる。理恵さんに全てを委ねるときまであた
しは奈緒人と奈緒に最大限の愛情を注ぎながらこの子たちの母親役をしよう。

 兄貴に対する執着を割り切ってそう決心したものの、調停の状況はあまり思わしくなか
った。このままではあたしの入社のときが訪れてしまう。そうしたらあたしは大切なこの
二人の面倒を見ることができなくなる。養育実績の面では致命的なほどマイナスだった。

 こうして再びあたしは選択を迫られるようになった。兄貴と一緒に暮らすことができな
くなった今、あたしは兄貴の離婚が成立するまでの間のリリーフとして奈緒人と奈緒の面
倒をみるために内定を辞退すべきなのだろうか。

 調停は一進一退という感じだった。理恵さんと再婚予定で養育環境が整ったことを主張
した兄貴は、引き換えに麻紀さんが自分の浮気相手で、奈緒の実の父親である鈴木雄二と
再婚することを聞かされた。同時に麻紀さんが主張を変更して、奈緒人の養育権を放棄し
奈緒の養育権と監護権のみに的を絞った。

 そんなある日、あたしは兄貴に真面目な顔で話しかけられた。兄貴が仕事から帰ったと
きもう子どもたちは眠りについていた。両親は子どもたちよりも早く就寝してしまうのが
いつもの習慣だったから、あたしはリビングで兄貴と二人きりだった。

「なあ唯」

「うん」

「親権のことなんだけど・・・・・・」

「大丈夫だよ。いくら奈緒の実の父親がいるっていったって、怜奈さんの死後自分の娘を
引取りすらしなかったのよ。麻紀さんが二人をネグレクトしたことは調停委員に事実認定
されているし、お兄ちゃんの育児実績だって問題ないよ。これで負けることなんか考えら
れない。奈緒はお兄ちゃんと理恵さんと一緒に暮らせるよ」

 そうだ。時間はかかっても勝利は確実だ。育児実績が順調なことが一番大切な点だ。あ
たしのしていることは無駄じゃない。

 そのためなら内定を辞退しよう。あれだけ悩んだことが嘘のようにあたしは不意にそう
決心した。兄貴のためなら、大好きなお兄ちゃんのためならそれだっていい。そして兄貴
と子どもたちを理恵さんに託すときがきたら、黙って身を引いて司法試験の勉強でもしよ
う。

「奈緒のことは麻紀に任せようと思う」

 ・・・・・・兄貴が何を言っているのかしばらくあたしには理解できなかった。その後で絶望
の黒い闇が心を覆って行った。


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