321:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/24(水) 23:40:16.80 ID:WX+iqy8+o
「唯ちゃんがパパの彼女ならいいのに」
有希ちゃんが小学校の四年生になる頃だったか、彼女がやたらとあたしにそう言い出し
たことがあった。この頃の有希ちゃんは学校で親友もできて、またピアノの演奏という興
味の対象ができたためあまり事務所には顔を出さなくなっていた。それでもピアノレッス
ンがない日とか親友と会えない日とかに退屈すると、彼女はたまに事務所に顔を出す。事
務所に来ると嬉しいことに彼女は真っ先に太田先生の執務室ではなくあたしの部屋に来て
くれる。
「何言ってるのよ。あたしは有希ちゃんのライバルになる気なんかないよ」
有希ちゃんが重度のファザコンだということにこの頃のあたしは気がついていたし、有
希ちゃんもそのことを隠そうとしないばかりか、太田先生への気持ちを自らあたしに話し
たがる始末だったので、あたしもこの話題に大分慣れてきていた。だから、有希ちゃんに
こう言われたとき、あたしは素直に反応することができた。単なる冗談としてだけど。
「だって実のパパだし、有希とパパが恋人同士になったらまずいんでしょ?」
富士峰の清楚な小学校の制服に身を包んだ有希ちゃんが、あたしの部屋のソファに腰か
けて白いストッキングに包まれた細い足をぶらぶらと揺らしながら言った。
「・・・・・・それはまあ、世間一般じゃタブーとされている関係ではあるね」
小学校四年生相手の会話じゃない。しかも相手は自分のボスの一人娘なのだ。
「まあ、パパがあたしを好きなことは間違いないんだけど、パパってば全然あたしに告白
とかしてくれないんだよね。というかあたしの手にだって触れてこないし」
「有希ちゃんさあ、そういうことはあたし以外の人には言わない方がいいよ」
有希ちゃんはふふって可愛らしく笑った。
「言うわけないじゃん」
「ならいいんだけど」
「あたし、パパが頭悪い女の人と付き合うのやなの。いつもいつもあたしが話しかけても
ちゃんと答えられない女の人ばかり」
「最近のボスの彼女ってやっぱり大部屋の人なの?」
大部屋とは事務所の中で、事務員たちが詰めている部屋のことだ。庶務頭とよばれてい
るあたしより年上の三十台後半のお局さん以外は、そこで働いているのは皆二十代の女性
たちだ。
「最近は違うみたい。今はパパはフリーみたいよ」
「そうなんだ」
「唯ちゃんがパパの彼女ならあたしはパパとの仲を認めるんだけどなあ」
「それは光栄ね」
「本当だって。唯ちゃんは頭いいし、有希とも話が合うし。唯ちゃんならパパの再婚相手
だって許しちゃう」
あたしは思わず笑ってしまった。それでも有希ちゃんの信頼は嬉しかった。
「太田先生は面食いだからねえ。あたしなんかには興味ないよ」
「唯ちゃんは可愛いって」
小学生に言われても嬉しくない。でも、そのとき有希ちゃんは秘密を打ち明けるような
顔で何か言いた気にあたしの方を見た。
「あのさ、でも本当はパパの好きな女って」
「うん?」
「誰にも言わない?」
「何が?」
「あたし見ちゃったの。パパの寝室にアルバムがあるのを」
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