356:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/08/27(火) 23:32:38.55 ID:UmNNo2dKo
「じゃあ言うよ。あたしの望みはね、このままあたしをここから出してもらうこと。あと、
事務所は辞めるから揉めずに辞めさせて欲しいこと。二度とあたしと顔を合わせないでく
れること」
「それだけ? それに加えてお金なの? 横領した二億円のうちどのくらい欲しいの。ま
さか半分とか言い出さないでしょうね」
やはり有希はあたしの言葉なんか何にも信じていないようだった。
お金なんか欲しくないよって答えようとしたとき、不意に奈緒人と奈緒の顔が脳裏をよ
ぎった。
有希は麻紀さんの代理人だった太田先生の一人娘だ。そして太田先生の姪が奈緒なのだ。
寂しがり屋だった小学生時代の有希にできた友だちの名はナオ。昔その話を有希に聞いた
ときはうかつにもそれを聞き流してしまったのだけど、その友だちとはまさに奈緒のこと
だったに違いない。
そして奈緒人の方は、有希とは全く縁がないはずだったのだけど、さっきのカヤマとか
いう男の話ではどうも明日香ちゃんと奈緒人にちょっかいを出させたのは女帝、つまり有
希らしい。
今の今まであたしが考えていたのは、自分が信頼していた先生に裏切られ利用されてい
たという事実だけだった。だから、なるべく早く有希から、この事務所から逃げ出すこと
だけを考えていた。逃げ出した後は法律事務所の方も辞職すればいい。有希は疑っている
ようだけど、奈緒人と奈緒のことに考えつくまでは、あたしが考えていたことは本当にそ
れだけだった。
だけどあたしは今になって急にもっと大事なことを思いついた。ここで手を引けば、奈
緒人や明日香ちゃんの身に起きていることを知ることができない。
さっき盗み聞きしたカヤマの言葉が思い浮んだ。
『中学生の、それも富士峰のお嬢様がねえ。いったいどのチンピラがあんたの男なんだ?
飯田か。それとも池山なのか』
『まさか、結城奈緒人じゃねえよな』
『まさか図星か。特別大サービスで教えてやろうか。おまえのこと女帝だって警察にちく
ったのは、結城奈緒人だよ。妹の結城明日香の事件がらみでな、兄貴の方が女帝に心当た
りがあるって言って来たってことだ。まさかとは思うけど奈緒人を取り合って明日香を襲
わせたんじゃねえだろうな』
これは賭けだ。失敗すれば自分にどんな結末が待っているのかわからない。それでもあ
の携帯電話の通信料金の請求が途切れてから初めて、あたしは人生の目標に再会できたの
かもしれない。どうせ目標のない人生なのだ。ここで大切な子どもたちのために賭けてみ
てもいい。そして慎重にやれば、大学卒業以来したことはなかったことだけど、自分の全
能力と注意力を駆使すれば、奈緒人たちを脅かしている危機から救ってあげられるかも知
れない。
そしてそのためのネタは掴んだのだ。一時期世間を賑わせた神山スポーツ横領事件の真
犯人が地裁が選定した管財人だったというネタを。
「あとさ。有希ちゃんに話を聞きたいな」
「話って何?」
「結城奈緒人についての話」
有希は動じなかった。
「加山の話を聞いていたのね。でも、唯ちゃんには関係ないつまらない話だよ」
「それでも聞きたいの。関係はあるから」
「何ですって」
有希の口調が変わり目が光った。
「お互いに話し合うことがあるんじゃないかな、あたしたち」
有希が黙ってしまった。
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