388:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/18(金) 23:11:47.32 ID:/Uz+bOigo
有希があたしに気を許して全てを話してくれたと思っていたわけでなかった。過去にあ
たしが兄貴のことが好きだということくらいで自分の秘密をさらけ出すわけがない。たと
え幼い頃から慕われていたとしても。ということは女帝にはあたしに秘密を明かすだけの
理由があったのだろう。その後の付き合いであたしはその理由を探ろうとした。
一見、あたしの日常は有希の告白前とは何にも変わっていないように見えただろう。あ
たしは毎日太田先生の弁護士法人に事務スタッフとして出勤し、社員である弁護士達から
の調査の指示を受けて、主に企業の体力を調べる日常を繰り返していた。ただ、以前と異
なっていたのは手許に持っているあたしのIDカードが一枚増えていたことだった。
毎日ではないけれど、あたしは自分の仕事を終えると十四階にある自分のオフィスを出
てエレベーターで二十六階を訪れた。もう一枚のカードをカードリーダーに通すと地味な
オフィスの扉が開く。いつもならいかにも水商売あがりといった風情の二人組みに睨まれ
るという素敵な出迎えを受けるのだけど、どういうわけかこの日の受付には何だか目付き
の悪い高校生らしい男の子が、足をデスクに投げ出すようにだらしない姿勢であたしを出
迎えた。
「あんた誰? 勝手に入ってくるんじゃねえよ」
「あなたこそ。ここで何してるの」
「んだあ。てめえ誰に向って」
「やりなおし」
「え」
「やりなおして。教えたとおりに」
いつのまにか現れた有希が静かに言った。
「いや、だってこいつ勝手に」
「ユウト。これからはこの人のことは結城さんって呼ぶのよ。結城さんはビッチの最高顧
問なの。覚えておいてね」
「ちょっと有希ちゃん。あたしにはそんなつもりはないよ」
ユウトと呼ばれた高校生は突然机から足を下ろして立ち上がり最敬礼した。
「どうもすいませんでした! 申し訳ありませんでした」
「・・・・・・どういうこと?」
有希の部屋に招じ入れられたあたしは有希に聞いた。
「どういうことって?」
「何でいつもの女の子が受付にいなかったの」
「今日はあの子たちの初仕事なのよ。イメクラで働いていたのを女優経験があるとか言っ
ちゃう子たちだからちょっと心配だけどね」
「・・・・・・最高顧問になんかなったつもりはないんだけど」
「ああ、そのこと。ユウトにはああいうのが一番効くのよ。ただそれだけ。これが池山か
飯田ならいきなりうちの事務所に入ってきた人をいきなり脅したりしないんだけどね。で
も池山も飯田も今は出て来れないし」
「だからあれは便宜的に言っただけ。別にビッチにはあなたの力なんかいらないし」
あたしの沈黙は安堵からのものだったのだけど、有希はどうやらそれを勘違いしたよう
で少し慌てて言いわけを始めた。
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