過去ログ - ビッチ・2
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4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/15(金) 23:13:46.77 ID:kwCozKeOo

 博人は奈緒人と一緒に斎場の駐車場で待っているそうだ。麻季は車を降りて入り口の方
に歩いて行った。

 入り口に黒々とした墨字で太田家と書いてあるのは何でだろう。怜菜は先輩の奥さんな
のだから鈴木家と記されているべきではないか。

「麻季」

 斎場に入ると人で溢れている入り口のロビーに川田先輩がいた。

「先輩」

「ちょうど始まったところだよ。一緒に並ぼう」

 麻季は川田先輩と一緒に焼香を待つ列の後ろについた。並んでいる黒尽くめの人の列の
せいで祭壇や親族席の方を覗うことはできない。

「交通事故だって。怜菜、まだ若かったのに」

 川田先輩がくぐもった声で麻季にささやいた。

「お嬢さんを庇って暴走した車にはねられたそうよ。お嬢さんだって小さいのにね」

「・・・・・・怜菜って子どもがいたんですか」

 麻季の声が震えた。

「そうよ。鈴木先輩もさぞショックでしょうね」

 列が動き出した。始まると早かった。少しして麻季は列の先頭に立った。

 親族席に頭を下げたとき、麻季は絶望的な表情で親族に混じって座っている鈴木先輩と
目が合った。頭を下げた麻季に応えて怜菜の家族や親族たちもお辞儀をした。同じように
頭を下げた先輩はもうそれ以上は麻季と目を合わそうとはしなかった。

 祭壇の中央には怜菜の写真が飾られていた。怜菜の通夜や葬儀にあたって怜菜の両親が
がどうしてその写真を選んだのかはわからない。写真の中の怜菜は生まれたばかりの自分
の娘を大切そうに抱いてカメラに向って微笑んでいた。その微笑はかつてキャンパスで麻
季の横に立って彼女に向けてくれたものと同じ微笑だった。

「ちょっと話していかない?」
 香典返しを受け取ってそのまま斎場を後にした麻季に、先に外に出ていた川田先輩が話
しかけた。「怜菜の知り合いがいっぱい来ているの。サークルの人たちとか。少し話をし
て行こうよ」

「ごめんなさい。息子が待っているので」

「そうだよね、ごめん。あたしは娘を旦那に任せてきたけど、結城君ってマスコミに勤め
てるんだもんね。そんなに簡単に帰っては来れないね」

「ええ。教えていただいてありがとうございました」

「うん。あんまり気を落すんじゃないよ。怜菜のことは本当に悲しいし悔しいけど、彼女
は大切な娘を守ったんだもん。決して無駄には死んでないんだから」

 もう無理だった。ここまでは心が氷ついていたせいで痛みすら感じなかった麻季だけど、
だんだんと彼女の精神が、彼女の秩序が崩れていくみたいだ。

「鈴木先輩もつらいでしょうけど、ナオちゃんの育児とかしなきゃいけないだろうし、そ
れで気が紛れてくれればいいんだけど」

 川田先輩がそっと言った。

「怜菜の子どもってナオちゃんて言うんですか」

「うん。奈良の奈に糸偏に者って書くみたい」

「・・・・・・失礼します」

 麻季はもう川田先輩の方を見ることもなく駐車場に向って歩き始めた。あっけにとられ
たように先輩は彼女の後姿を眺めていた。


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