過去ログ - ビッチ・2
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428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/18(水) 00:25:44.40 ID:owlu8LCeo

『お兄ちゃん、それなあに』

『なんでもないよ。明日香には関係ない』

『何で意地悪するの。それなあに』

『うるさいなあ。あっち行けよ』

『やだ』

『行けってば』

『やだ。ここはリビングだもん。お兄ちゃんの部屋じゃないじゃん』

 もうすぐ奈緒から電話がかかってくる時間だ。明日香がどこかに行かないなら僕が移動
しよう。明日香のことは嫌いじゃない。でも、たとえ新しく妹になった明日香にだってこ
の時間だけは邪魔させるわけにはいかない。

『僕ちょっと出かけてくる』

『明日香も一緒に行く』

『ついてくるなよ』

『やあだ。明日香も行くの』




 最近、いろいろと断片的に記憶が戻ってきてはいたのだけど、この記憶が脳内で復元さ
れたのは初めてだった。多分、今日唯お姉ちゃんと話しをした影響かもしれない。唯お姉
ちゃんの話の後半はほとんど自分と有希との関係に終始したのだけど、これは最初の方に
話してくれた秘密の携帯電話に関する記憶だった。

 復元されて浮かび上がった記憶を僕は探った。

 その頃、僕は父さんとも新しい母さんとも、そして妹の明日香とも表面上はうまく付き
合っていた。ただ、奈緒に会えないショックだけはどんなに新しい家庭で親切にされても
拭い去ることはできなかった。

 表面上はおとなしく何一つ要求することなく、言いなりになっていた僕の心の支えは唯
お姉ちゃんから渡された携帯電話だったのだ。僕はその携帯を誰にも見せなかった。幼稚
園に行くときは与えられた部屋のクローゼットの隅に隠した。最初に奈緒から電話がかか
ってきたときは危なかった。明日香に気づかれるところだったので、それ以降はお互いが
通話する時間はお互いが就寝するために自分たちの部屋に入って以降にすることにした。

 たまたま、そのときは奈緒が変則的な時間に電話をかけてきたせいで、クローゼットか
ら取り出してポケットに入れておいた携帯が振動してしまい明日香に気がつかれたのだ。

 明日香を振り切った僕は近所の公園から奈緒に電話をかけなおした。明日香のせいでさ
っきの奈緒からの電話に出られなかったから。

 奈緒と会いたいとか、絶対にいつかは会えるよとかそういう言葉を交わして自宅に戻っ
た僕を待ち受けていたのは、新しい母さんだった。一緒に暮らして以来いつも僕には優し
かった母さん。その母さんが険しい顔で僕を迎えた。

「奈緒人君。携帯電話を出して」

 僕は無言で後ずさりした。

「出しなさい!」

 それはいつも優しく接してくれた母さんから初めて聞くようなヒステリックな声だった。
僕は父さんを探したけど、まだ帰っていないようだ。

 明日香が母さんに言いつけたのだ。そして母さんは僕がこの世の中で一番大切なものを
取り上げようとしている。踵を返して家から走り出ようとした僕の腕を母さんが掴んだ。

 泣いて抵抗する僕から、母さんは唯お姉ちゃんがくれた携帯電話を取り上げた。このと
き、今度こそ本当に僕は奈緒を失ったのだ。

 ・・・・・・そして、そのときの衝撃で僕は生まれてから新しい家族と暮らすようになるまで
の記憶を失ったのだ。


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