49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/27(水) 00:21:36.50 ID:rVw+N0iYo
冷たい雨の中を傘もレインコートもなく逃げ出した二人は、すぐに警邏中のパトカーに
乗った警官に発見され保護された。パトカーの後部座席に乗せられた二人は手を繋いで互
いに寄り添ったままだった。そして連絡先を優しく聞き出そうとする初老の人の良さそう
な警官に対しては一言も喋らす何も返事をしなかった。
「君たち迷子になったんんでしょ? おうちの人に迎えに来てもらおうね」
その警官は無骨な顔に精一杯笑顔を浮かべて連絡先を聞き出そうとしたけど、二人はさ
らにお互いの体を近づけて握り合う手に力を込めるだけだった。
「何か様子が変ですよ」
運転席の若い警官が初老の相棒に声をひそめて話しかけた。「もしかして虐待とかじゃ
ないですかね」
「いや。雨に濡れてはいるけど服装もきちんとしているし、外傷もなさそうだしな」
「そうですね」
運転席の警官が身体を回して二人を覗き込んだ。「あれ? 女の子のカバンに何かタグ
がついてますよ」
「うん? お嬢ちゃんちょっとごめんね」
初老の警官が奈緒の持っているバッグに付けられていたタグを手に取って眺めた。
「よし。緊急連絡先とか血液型とかが書いてある。えーと、結城奈緒ちゃんって言うんだ
ね」
自分の名前を呼ばれた奈緒は顔を上げようともせずに、これまで以上に力を込めて奈緒
人に抱きつくようにしただけだった。
「仲がいいなあ」
そう言いながらも警官は手際よく連絡先を読み取った。「携帯の番号が書いてあるな。
心配しているといかん。俺はここに電話してみるからとりあえず角の交番まで連れて行こ
う」
「了解です」
降りしきる冷たい雨の中を、それまで停車していたパトカーは点滅させていたハザード
を止めて動き始めた。
『結城麻季さんですか?』
『ええ。結城奈緒ちゃんという女の子と、多分お兄ちゃんですかね? 小学生低学年の男
の子を保護しています。はあ? 男の子は奈緒人君ですか。お二人を引き取りに来ていた
だけますか? そうです。明徳町の交差点にある交番で保護していますから』
『兄妹じゃない? はあ。そうですか。じゃあ奈緒人君の保護者の連絡先をご存じないで
すか? ええ。あ、ちょっと待ってください。メモしますから』
『はい。ユウキヒロトさんですか・・・・・・え? 苗字が同じですけど家族じゃないんですか。
はあ。じゃあ連絡すればわかるんですね』
先に交番に到着したのは5シリーズのBMWの助手席から降りてきた麻季だった。簡単
な事情聴取のあと、鈴木先輩が確かに奈緒が自分の娘である証拠を提示した。麻季は奈緒
人には目もくれずに、奈緒の腕を取って鈴木先輩が運転席で待つ車の後部座席に彼女を乗
せた。
「ご面倒をおかけしました」
そう言って麻季は奈緒の隣に乗り込んだ。
このときになって思わぬ成り行きに呆然としていた奈緒人と奈緒が同時に叫び出した。
「奈緒・・・・・・奈緒!」
「お兄ちゃん! 奈緒、お兄ちゃんと離れるのはいや」
警官たちが子どもたちの様子に不審を覚えるより早く、奈緒を乗せたその黒いBMWは
走り去って行ってしまった。
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