58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/28(木) 23:54:05.70 ID:vWEKN95Po
何をするでもなくただ身を寄せ合って二時間近く海辺をうろうろしただけで、僕と叔母
さんは江の島の島内の駐車場に戻って来た。内容のある話なんか全くしていない。
「かもめだ」とか「浜辺に雪が積もって白くなっている。初めてみたよ」とか「冬でも
サーファーの人って海に入ってるんだ。寒くないのかな」とか。ここまで来て僕たちが交
わした会話なんてどうでもいいにも程がある。
でも駐車した車のところまで時間をかけて戻ってきたとき、叔母さんはいったん僕の腕
を自分の肩から解くようにして、少しだけ離れた位置で僕を見つめた。
「今日はありがとう、奈緒人。おかげで嫌なことを忘れられたよ。明日香にもお礼を言わ
ないといけないね」
「僕は別に・・・・・・。むしろ叔母さんに変なことをしようと」
叔母さんはすぐに僕の言葉を遮った。
「あんたがそんなこと言うな。嬉しかったよ。あたしがあんな気持悪い告白をしたのに、
あんたは今日ここまで付き合ってくれたし」
叔母さんはそう言って、目を瞑って顔を上げた。僕は叔母さんにキスした。叔母さんの
手が僕に回され、僕も叔母さんを抱き寄せるようにした。それが叔母さんとした最後のキ
スだった。
「はい、これでおしまい」
叔母さんはそっと僕の腕から抜け出して笑った。
「叔母さん・・・・・・」
「これで本当におしまい。あたしもあんたのおかげでいい夢を見させてもらったわ。お互
いに今日のことはもう引き摺らないようにしよう。できるよね?」
「・・・・・・うん」
「よく言えました。じゃあ、帰ろうか。家まで送って行くから帰ったら明日香に優しくし
てやってね」
帰りは行きよりも早く時間が流れて行くようだった。もう叔母さんも僕も何も喋らなか
った。叔母さんは黙って車のスピードを上げた。昼間の慎重な運転が嘘のように。
やがて、車が住宅地に差し掛かると叔母さんはアクセルを緩めた。前に僕が住宅地内で
の乱暴な運転について注意したことを思い出したのだろうか。自宅まで送ってもらったと
きは既に夜の七時を越えていた。
「送ってくれてありがと」
「じゃあ、明日香によろしくね。あと結城さんにも」
「父さんはいないと思うけど。叔母さん、うちに寄って行かないの」
随分心ないことを僕は口にしてしまった。でも叔母さんは少しだけ笑っただけだった。
「今日は帰るよ。また来るね」
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