過去ログ - ビッチ・2
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9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/15(金) 23:17:53.46 ID:kwCozKeOo

 その後の生活の中で博人は奈緒のことなんか一言も口にしなかった。本当に全く一言も。

 それなのに、ある日麻季が奈緒を引き取りたいと思い切って博人に相談したとき、ほん
の一瞬だったけど確かに博人の表情が明るくなった。怜菜の死以降、そんな彼の表情を見
るのは初めてだった。

 一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた博人はすぐに顔を引き締めた。そして他人の子を引き
取って育てることの難しさや、どれほどの覚悟がそれに必要かを延々と話し始めた。麻季
はそんな彼の言葉を真剣に聞いて考える振りをしていたけど、頭の中ではそんなものは聞
き流していた。

 博人君は格好をつけているだけだ。本当は怜菜の忘れ形見を引き取れることが嬉しくて
たまらないのだろう。それでも怜菜と博人との淡い恋情を麻季に告白してしまった彼には、
自分からそのことを申し出ることが出来なかったのだ。だから、いろいろと難しいことを
言ってはいても、麻季が奈緒を引き取りたいと言ったことを彼は本当に喜んでいたのだろ
う。

 何で自分が奈緒を引き取らなければいけないのか、麻季にはよくわかっていなかった。
ただ、例の声のアドバイスに従っただけだったから。



『こんな表面だけを取り繕った夫婦生活をずっと続けるつもり?』

 声はいつでもそう話す。博人君が家にいるときには麻季はそれなりに彼のことを信じら
れた。だけど博人君不在で家にいるときに麻季はいつも不安に襲われる。そういうときを
狙ったように心の中で声が話し出す。

『怜菜が死んでもまだ終ってないんだよ。先輩との浮気で始まったこの作戦はさ』

『作戦とか言うな。もう先輩とも本当に終ったし怜菜も死んだの。これ以上続けることな
んてないよ』

『あるよ。まだ奈緒がいる。怜菜の意図なんてまだ何にもわかっていないのよ』

『わかってるよ。怜菜は博人君と結ばれようとしてたんだよ。でも彼女が死んじゃってそ
れは終ったのよ』

『そんな単純なことじゃないと思うけどなあ。だって、実際博人君の心は怜菜に持ってか
れちゃったままじゃん。だから何にも終っていないんだよ』

『それは』

『君は奈緒人のためにだけ表面だけ取り繕ったようなこんな夫婦でこの先ずっとやってい
けるの?』

『あたしと博人君はそんなんじゃない』

『奈緒を引き取ろうよ。博人だって喜ぶし。もうそれくらいしか君に出来ることはないよ。
それでも出来ることはしておこうよ』

 このときも結局、麻季はその声に負けた。

 次の週末、麻季は博人の運転する車に乗って降りしきる雨の中を奈緒が預けられている
乳児院を併設した児童養護施設に向った。


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