過去ログ - 京太郎「もつものと、もたざるもの」
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910: ◆CwzTH05pAY[saga]
2013/04/02(火) 02:10:09.15 ID:Cw7gu7UDo
桃子は赤くなった先の顔を横目で見つつ、前々から思っていた疑問を先にぶつけた。

「最初、私は須賀君と付き合ってると勘違いしてたっす」

「私が? 残念ながらそういうのは無かったなぁ」

「残念ながら?」

桃子の言葉尻を捕まえた問いに咲は少し悩んで小さく頷いた。

「うん。今思うと、ちょっとだけね」

咲はそう言って新たに来たカクテルを小さく口に含んだ。
口当たりはいいとは言え、強いアルコール度数に小さく息を吐く。

「京ちゃんとは仲がいいよ。一緒にご飯食べに行くことは沢山あったし、2人で遊びに行ったり買い物に行くこともあった」

その発言に対して疑問の声を投げかけようとする桃子だったが咲のでも、という声に遮られた。

「でも、そこまで。結局仲のいい友達だった。少なくとも京ちゃんは、それ以上になろうだなんて考えなかったと思う」

「わかるんすか?」

「うん。京ちゃんにとってきっと私は友達で、超えるべき壁で、目標で……そういう色っぽい何かが入り込む余地は、なかったんだ」

咲は少し多めに酒を口に含んだ。
喉が熱くなってくるが、こみ上げてきた言い知れぬ感情を飲み込むように酒を流し込んだ。

「……私が京ちゃんを男の人として好きだったかは正直わからないんだ」

「えっ?」

「でも、でもね」

咲はそう言いながらテーブルに零れた水滴に人差し指を当て、すっと軽く横に指を滑らせる。
カウンターにできた水滴の線を眺めつつどこか悲しそうに言った。

「京ちゃんとそういう関係になってみても、いいんじゃないかななんて、思ったことはあったよ」

顔を伏せた咲に何を言えばいいのかわからなくなった桃子は言葉の続きを待った。

「でも、駄目。私と京ちゃんの間には越えられない溝が、越えられない壁があって……」

あの時のことを思い出すと咲の胸は今でも痛む。
彼の苦しみを分かれなかったあの時。
あの時の拒絶の言葉は未来永劫忘れることはないだろうと咲は思っていた。

「だから、私は諦めたんだ。私と京ちゃんがそういう関係になるのは、無理なんだって。どうしようもないんだって」

桃子は以前、清澄の麻雀部でかつて何が起こったのかを大まかに聞いていた。
それが故に、何の事情も知らぬものだったら臆病すぎると切って捨てるかもしれないその発言に否定の言葉を返せなかった。

「まぁ、ほら、恋してたとかそういうのじゃないから。誰だって思うときあるでしょ? 誰々さんと付き合ってみたいとか、恋人になってみてもいいかなとか」

「……わかるっす」

慌ててフォローするかのように、取り繕うかのような咲の言葉に、桃子はそう返すのが精いっぱいだった。



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