900:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 07:46:58.46 ID:nQ4y3AGI0
何で、あそこにいるのが麗なんだ…何で、俺じゃないんだ…
嫉妬している場合ではないというのに健太の中ではぐるぐると黒い感情が渦巻き、教室内に漂い始めていた血の臭いと相まって、うっと呻き声を上げて口を押さえた。
健太の異変に気付いたもみじが「健ちゃん…?」と名前を呼びながら健太のブレザーの袖を掴んだが、健太はそれを振り払った。
俺が咲良を護る。
麗じゃない、俺が、咲良を、護るんだ。
あんなヤツらに、傷付けさせてたまるか。
一歩を踏み出そうとしたところで、健太は腕を掴まれた。
振り返ると、そこには瑠衣斗の端正な顔があった。
いつもと変わらない無表情で健太を見下ろし(それでも眼鏡の奥にある双眸には、明らかに怒りの色が現れていた)、低く囁いた。
「木戸、下手に動くな」
「瑠衣斗…でも、咲良が…っ」
「城ヶ崎がついてるんだ、上野原は大丈夫だよ。
…木戸が考えてることはわからないわけじゃないけど、今は耐えろ。
お前に何かあれば一番悲しむのは上野原だ、そうだろ?」
咲良の悲しげな表情が脳裏を過り、健太は俯いた。
咲良の悲しむ顔なんて見たくない、彼女には笑顔が何よりも似合うのだから。
咲良を悲しませることなんて、してはいけない。
ぐるぐると渦巻く感情を吐き出すように、健太は大きく深呼吸をした。
少しだけ気持ちの昂りが治まり、小さく瑠衣斗に礼を言った。
向こう見ずな行動を起こそうとした自分を止めたのが、幼馴染の紗羅やもみじではなく瑠衣斗だったことを、場違いだが少し嬉しく感じた。
瑠衣斗との付き合いは中等部に入って間もない頃からだったのだが(中等部の入学式で代表挨拶をした“学年首席”の瑠衣斗に興味を持った麗が、無理矢理グループに引っ張り込んできたのだ)、瑠衣斗はいつも何を考えているのかわからず、健太や麗が可笑しいことを言って他のメンバーが笑っていてもクスリともしなかったので、もしかすると瑠衣斗には仲間意識はなくただ引き摺られてきたから一緒にいるだけなのではないか、と思っていた。
しかし、瑠衣斗は瑠衣斗なりに健太たちを見てくれていたのだ。
麗を信頼し、健太や咲良のことを気遣ってくれるその気持ちが嬉しかった。
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