982:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:43:14.45 ID:nQ4y3AGI0
絵梨果たちにはトイレに行くと言ったが、別にトイレに行きたくなったわけではなかった。少しの間、一人になって考えたかったのだ。淳子のことだ。
淳子と中学一年の時から、一番仲が良かったクラスメイトは直美であった。もちろん直美は他の友達も大切だったが、その中でも淳子は別格だったのだ。
直美と淳子は毎日のように一緒に行動を共にしてきた。大好きだったのだ。淳子のことが…。
だがある時、淳子に彼氏が出来た。塔矢である。
直美は淳子に彼氏が出来たということはなんら不思議に思ってはいなかった。淳子は積極的で明るくて行動力がある。自分なんかよりもずっと異性に好かれるタイプであることは理解していた。だからいつかこんな日が来るかもしれないと、かなり前から考えたことがあった。
983:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:44:28.64 ID:nQ4y3AGI0
「智里ぉ!!」
直美は智里の体を抱き上げて泣きついたが、智里はもう直美には何も言い返しては来なかった。
「絵梨果ぁ!! 美咲ぃ!!」
首だけになってしまった絵梨果や、頭が完全に陥没してしまっている美咲にも近寄って泣きついたが、当然3人とも二度と口を開くことはなかった。
984:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:46:53.87 ID:nQ4y3AGI0
分校の場所から、林を南西に歩き続けていると、緩やかな坂が現れた。女生徒は迷うことなく、その坂を登り始めた。するとその先に、大きな洞穴の入口らしき空間が現れた。
ここに隠れよう。
ほんの少しポッチャリとした顔をこわばらせながら、南条友子(女子16番)は懐中電灯で中を照らしながら穴の中に入っていった。この中に隠れていれば、誰にも見つからないかもしれないと考えたのだ。
私は殺し合いなんてしたくない。もちろん死にたくもない。
元々気が弱い友子の目からは、常に涙が溢れ続けていた。分校を出発してから、この涙は一度も止まったことはない。
985:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:47:22.84 ID:nQ4y3AGI0
いつも明るく、どんなときでもお調子者で、クラス内でも人気者の透は、今まで学校内で泣くことなど無かったのだ。いや、もしかしたらあったのかもしれないが、少なくとも友子はそんな光景を見たことはなかった。いずれにしろ透が泣くことは珍しいことなのだろう。
逆に友子自身は自分でも自覚していたが、どちらかというと泣き虫であった。もちろん今も涙は流れ出し続けている。
向かい合って、そしてお互いに泣いているその光景は、もし別の誰かが見ていたとしたら奇妙な光景にしか見えなかったであろう。
「今まで一人でずっと不安だったんだ。頭がどうにかなってしまいそうなんだよ。頼むから一緒にいててくれないか」
友子に頼み込むように言った。泣いているのにもかかわらず、不思議と透の声はしっかりとしていた。
986:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:48:42.71 ID:nQ4y3AGI0
男子生徒は友子の首に突き刺さっている鎌を抜いた。瞬間、友子の首からはおびただしい量の血液が飛び、男子生徒の制服にかかったが、その生徒は特にそのことは気にしなかった。
中の上くらいの高さの身長で、二重まぶたと、冷たい視線が特徴的なその顔。それは狩谷大介(男子5番)であった。
大介はヒュッと一度鎌を振り、刃の部分に付いた血を軽くとばした。
実にラッキーであった。とにかく自分以外の邪魔な生徒達を殺していこうと思っていたところに、出くわした友子が、大介に全く気が付いておらず、無防備な背中を見せていたのだ。このチャンスを逃すわけがなかった。
鎌に付いた血を制服の袖でふき取った大介は、地面に倒れている友子の体を蹴り飛ばした。友子の体は2メートルほど転がったが、そこで岩にぶつかって止まった。友子の体中に新たに出来た傷から血がにじみ出していた。
987:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:23.10 ID:nQ4y3AGI0
坪倉武(男子13番)は、近くに誰もいないか警戒し、辺りを頻繁に見回していた。そして辺りに誰の姿も見えないことに安心した武は、茂みの中をゆっくりと進んだ。
武が進むたびに、茂みがガサガサと大きな音を立てていたのだが、武は緊張のあまりそのことに気がついていなかった。誰かが付近にいたとしたら、茂みの音のせいで武のいる場所はバレバレである。それに気が付かないほど、武は放心状態であったのだ。当然自分の近くに、ついさっき殺人を終えたばかりの大介が潜んでおり、次に武を狙っているなど、知る由もなかった。
次の一歩を踏み出したとき、茂みの中の枝の一本がデイパックに引っかかった。
くそっ!
武はあせりながら引っかかっている枝をデイパックからはずした。はずした弾みで再び茂みからガサッと大きな音をさせてしまった。だが案の定武はそのことに気がつかない。
988:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:53.93 ID:nQ4y3AGI0
突然武の背中に何かが当たった。驚いて振り向くと、そこには一本の大木が立っていた。背中にあたったのが人間ではなかったことに少し安心したが、すぐに視線を目の前の大介に戻すと、再び恐怖が舞い戻る。
「待ってくれ!止まってくれ!こっちに来ないでくれ!」
武は両手を前に出して、とにかく大介に近寄ってこないように頼んだが、そんなことで殺意を持っている大介が止まるわけがなかった。
「武。お前さっきからうるせえよ。そんなに怖いんなら一思いに殺ってやろうか?」
口調はおとなしかったが、恐ろしく顔歪ませながら大介が言った。そう、ここへ来てついに大介が本性を見せたのだ。
989:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:52:57.13 ID:nQ4y3AGI0
龍輔は手にかけたばかりの真知子の死体をまじまじと見つめている。仕留めた獲物の大きさに満足するハンターのごとく、至福に満ち溢れた目つきをして。
圭子は自分の身体がぶるっと震えるのを感じた。当然だろう。全身から殺意を漲らしている猛獣のようなこの男を前にして、少しの恐怖も抱かないなど、気が正常である限りはありえない。
だが、圭子の中を支配する感情は、すぐに悲しみと恐怖のどちらでもなくなった。圭子の中を満たした感情、それは龍輔に対する怒りに他ならない。
「黒河くん! どうしてこんな酷いことを――どうして真知子を殺したのよ!」
口が勝手に動く。
990:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:54:31.80 ID:nQ4y3AGI0
プログラムに巻き込まれるという極限状態の中、参加生徒が精神に何らかの支障をきたすということは少なくない。過去何年にもわたって行われてきたプログラムの歴史の中では、そんな者の数など知れずといった状態だ。
そんな中、恐怖や緊張が限界点へと達してしまうと、僅かながらにでも正気を保っていた生徒でさえも、心をついに崩壊させてしまうという事態にまで発展してしまうこともある。発狂もちょうどこれに当てはまる。
今回プログラムに参加させられることとなった、兵庫県立梅林中等学校三年六組の生徒の中にも、こんな状態に陥ってしまった生徒は存在する。
ただでさえ乱れていた長い癖毛をさらに振り乱しながら、行く当てもなくフラフラと森林内を歩き続ける少女。氷室歩(女子十六番)。
二年前に起こった兵庫県立松乃中等学校大火災の被災者である彼女は、事件以来壊れてしまっていた。
991:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:55:48.84 ID:nQ4y3AGI0
どこからか十数発の連続した銃声が聞こえたので、森の中を歩いていた一人の男は足を止めて、ふと遠くの空を見上げた。
へぇ、誰か景気良くやってやがるな。
そんなことを思い、どこか爬虫類に似た攻撃的な顔に笑みを浮かべたのは黒河龍輔(男子六番)。恋人の死に泣き崩れていた烏丸翠を、容赦なく背後から撃ち殺した悪魔のような男だ。
龍輔は兵庫県立梅林中等学校の中では、最も恐れられていた不良だった。
生活態度は悪く、学校をサボるなんてことは毎日のように行い、きちんと登校してきた日も、他の生徒に危害を加えるなど、とにかく学校にとっては目の上のたんこぶのような存在だった。
992:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:56:43.93 ID:nQ4y3AGI0
そもそも龍輔に支給された武器はファイティングナイフ一本だけであり、いくら普段からナイフを使い慣れている(理由は聞くな)彼といえど、これだけでプログラムを戦い抜くということは難しいだろう。
そんなわけで、他の参加者に支給された武器がいかなる物か見当も付かなかった彼は、プログラム開始当初は少なからず不安を抱えなければならなかったのだ。
そんな中で手に入れた拳銃だ。プログラム内で支給されている物の中では、おそらく当たりの部類に入るであろうそれを手に入れた途端に、彼の自信が上昇気流に乗り始めたということは想像に難しくはない。
だが彼がこの時に手に入れた武器はこれだけではない。
風間雅晴のデイパックの中に入っていた白い粉。数年前から世間に出回り始めた新種のドラッグ『ホワイトデビル』。愛用者ひしめく裏世界では高額で売買されているそれをも、龍輔は手に入れていたのだ。
993:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:57:32.02 ID:nQ4y3AGI0
こんな所で死んでたまるかという思いから、プログラムのルールに乗っ取り、容赦なく同級生達を[ピーーー]と決めた龍輔には、迷いなく横に並んでくる人物の考えていることなど、頭を捻らずともすぐに分かる。
自分と同じく、このプログラムのルールに乗った。それ以外に考えられない。
だから彼はその時、自分よりも先に一歩を踏み出した御影霞と、それに遅れながらも堂々と戦場入りすることを決意した和歌子のことを、いずれ戦うことになるかもしれない強敵と見なして、警戒する必要があると判断した。するとどうだ。龍輔が強敵視した人物の一人は、今こうして他者を殺そうという考えのみに突き動かされる殺人機械となって、再び目の前に姿を現したではないか。これを案の定と言わずして何と言う。
自分と同じ考えを持つ者の出現に、流石の龍輔も気を引き締め、そして本気になって迎え撃たねばならなかった。そこにはもはや微々たる余裕もない。
一瞬だけ見えた相手の姿へと向けて、龍輔は走りながら発砲した。だが体制が悪かったためか、またしても外してしまったようだ。
994:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:58:35.35 ID:nQ4y3AGI0
陸上部の厳しい練習に毎日無欠席で参加し続けるのは当然のことで、学校が休みの日でさえも、早朝と夕暮れ時のランニングは欠かさなかった。そのおかげで、和歌子は今の俊足を手に入れた。
要するに、和歌子は努力に抜かりの無い女なのだ。そしてその性格は、プログラムに参加している今にも存分に役立っている。
龍輔の知るところではないが、春日千秋と磐田猛の二人から逃げ去った後、和歌子は先に殺害済みの徳川良規の遺体が転がっている場所へと戻り、そこでまだ回収前だった彼の武器、ボウガンを手に入れて、以後少しの間はその弓的練習に勤しんでいたのだ。
もちろん、いつ現れるか分からない敵に隙を見せてはならないため、それはほんの十回程度しか行われなかったが、その少しの差が、今、大きな違いとなってあらわれたのだ。
自分の武器を何度か試し、その性能をある程度把握できていた和歌子。敵と離れた状態での銃撃は、今回が初めての龍輔。その二人の狙いのどちらが正確なのかは考えるまでもない。
995:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:00:11.59 ID:nQ4y3AGI0
茂みの中から飛び出してきたのは矢ではなかった。それはその辺の地面にいくらでも転がっているただの石ころ。茂みの中から和歌子が投げたそれを、龍輔は矢だと思い込んでしまっただけだったのだ。
龍輔がそれに気付いたときには、時既に遅く、一瞬遅れて茂みの中から飛び出した矢が高速で迫ってきて、対処する暇すらない彼の手から拳銃を、神業とでも言うべき正確さではじき飛ばした。
手から離れた拳銃は宙を舞う。
龍輔はすぐさまそれを捕まえようと手を伸ばしたが、あと少しのところで届かず、最も信頼していたその武器は崖の下へと落下してしまった。
あの深い森の中に落ちてしまったなら、探して見つけ出すのはほぼ不可能だろう。だが今はそんなことをしている余裕はない。
996:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:01:19.11 ID:nQ4y3AGI0
右手のボウガンには、早くも次の矢も装填済みで、いつでも次の攻撃を仕掛けてきそうなその様子に、龍輔は悔しながら息を呑んでしまった。
「テメェ、ナメたマネしてくれるじゃねぇか! どうなるか分かってるんだろうな!」
威勢良く吠える龍輔。しかし冷静なる和歌子は全く動じない。だが劣勢でありながらも態度を変えないその姿は気に入らなかったのか、少し眉をしかめて怪訝そうな顔をした。
「あんた、どうやら自分が置かれている状況を理解できていないようね」
和歌子はボウガンを構えた。そして狙いを定めて矢を放つ。
997:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:02:14.67 ID:nQ4y3AGI0
遥かなる広がりを見せる外の景色を見ていると、窓から身を乗り出せば、何処まででも飛んでいけそうな気がした。だけど、それは単なる気のせいに過ぎず、実際にはそうはいかない。
今の私は、籠の中に放り込まれた鳥と同じ。柵の外に出たいと思っても、自力で飛び出すことは出来ない。この首に巻きついた忌々しき金属のリングのせいで。
藤木亜美は、窓の外の景色を眺めながら、深いため息をついた。
彼女は現在、ビルの周りを監視するという役割に就いている。猛曰く、ビル周辺に誰かが近づいてきたとしても、それにいち早く気づきさえすれば、なんとでも対策をとることが出来るとのこと。たしかに、近づいてきたのが敵だったとしても、その接近に早く気づけば、それだけ逃げるための準備時間を作ることも出来るだろう。だけど、いつまでもこうやって延命措置ともとれる行為を続けていたところで、状況が好転しはしない。
三日という定められた制限時間は刻々と迫る。そう、私に残された時間はもう三日も残されていない。このまま島から出ることができなければ、まだたったの十五年しか続いていない短い人生に、もうじき幕が下ろされてしまうのだ。
998:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:02:58.14 ID:nQ4y3AGI0
それだけは絶対に嫌だ。残されたほんの僅かな時間が尽きるまでに、絶対にこの島から抜け出す方法を見つけてやる。
亜美は全ての脳神経を集中させて考えた。だけど、思考能力の乏しい彼女がいくら頭を捻ったところで、良い方法が思いつくわけが無い。当たり前だ。亜美程度の頭で良案が考え付くなら、過去五十年以上に渡る共和国戦闘実験の歴史の中、参加生徒のうち何人もが会場から脱出し、今や収拾がつかなくなっていることだろう。だが、実際はそんな前例など、かの有名な一九九七年の沖木島脱走事件くらいしか聞いたことが無い。
一年に五十クラスが選出されるプログラム、その半世紀の歴史の中で、脱走の前例はたったの一つだけ。あまりにも低い確率だ。それだけ、プログラムからの脱出は難しいということだ。
となると、やはり残された生存方法は、たった一つに絞られてしまう。それは、プログラムのルールに従い、他の生徒を踏みつけにしてでも、最後の一人になるまで生き残るということ。
だが、まだ正気を保てていた亜美は、それだけは選んではならぬと自身に言い聞かせた。
999:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 13:04:11.46 ID:nQ4y3AGI0
どんなに悲しいことが起ころうとも、皆を元気付けるために明るく努めてきた私だけど、級友達が死に続けていくなか、今後も笑顔でいることが出来るだろうか。答えは否だ。いくら皆を元気付けるためにと、明るく振る舞い続けてきた私であっても、もはや笑ってなんかいられない。それほどに、今回与えられた絶望は、あまりにも強大なものだった。
憎々しかった。失われた幸福を我が手中に取り戻すために、悲しみに満ちた過去に背を向けて走り出していた生徒達に、まるであざ笑うかのように降りかかってきた災いが。
気がつけば、亜美の目元からあふれ出した涙が、光り輝く筋を描いていた。
もはや、私がいくら頑張って明るく振る舞ったとしても、皆に元気を与えることはできない。それが何よりも悲しかった。
だがいつまでも泣いてはいられなかった。亜美はブレザーの裾で目元を拭い、流した涙の痕跡を急いで消した。背後に誰かが立っている気配を感じたからだ。
1000:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/03/10(日) 13:04:19.98 ID:Meu6wghvo
>>1000なら次こそGONZO大活躍!
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