903:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/05(月) 09:46:42.68 ID:868/ISGe0
 不意に恒祐が梨杏から離れた――いや、恒祐は大きく目を見開いた状態で自分の意思に反して梨杏との距離を取らされた、という言い方が正しい。 
 恒祐は襟を後ろから引っ張られ、バランスを崩して仰向けに倒れていた。 
  
 「何すんだよ…林崎ッ!!」 
  
 恒祐は起き上がりながら、自分を引っ張ったもう1人のチームメンバーである林崎洋海(男子二十番)を見上げた。 
 細身だがクラスで最も背の高い洋海は、手にしていた金属バットを振り下ろした。 
 恒祐が身を起こすために地面に付けていた右手のすぐ横にそれは振り下ろされ、小石に当たったらしくカァンという高音が響いた。 
 恒祐はぎこちなく首を動かして金属バットが振り下ろされた先を見、口許をわなわなと震わせていた。 
  
 洋海は梨杏とは同じ文芸部に所属する部活仲間だ。 
 とは言うものの、洋海は挨拶以外では言葉を発しないのではないかと思う程に無口で(このクラスには池ノ坊奨(男子四番)や榊原賢吾(男子七番)や瑠衣斗や利央といった口数の少ない者が多いが、その彼らですら饒舌だと思えてしまう程に洋海の無口さは群を抜いていた)、梨杏も挨拶以外には言葉を交わさない。 
 梨杏に言わせれば、何を考えているのかさっぱり理解できない、勉強も運動も人並以下のことしかできないウドの大木だ。 
 辺りを見回しているところをみると、騒いで誰かに見つかるのを防ぐために、梨杏と恒祐を引き剥がし、騒がしい恒祐を威圧して黙らせたのだろうか。 
 洋海自身がこの間一言も発していないので、真相は定かではないが。 
  
 「あーあ、馬鹿馬鹿しい」 
  
 かれんはわざとらしく溜息を吐き、人工的な睫毛に覆われた瞳で3人を見遣った。 
  
 「一応チームメイトなわけだしさ、仲間割れとかやめない? 
  こんなところ誰かに狙われたら、あっという間に全滅じゃないの」 
  
 「星崎…でも俺やだぜ。 
  星崎と林崎はともかく、如月とつるむとか絶対できねーよ。 
  しかも、他のヤツらと戦うことになったとしたら、コイツ護らなきゃいけないとか… 
  やだよ、こんな最悪なヤツのために命張るとか」 
  
 恒祐は失礼なことに梨杏を指差した。 
 そう、この共通点もなければ普段の接点もなければチームワークが生まれる兆しもないチームのリーダーは、他でもない梨杏だ。 
 馬鹿たちの命を、梨杏は背負っているのだ。 
 自分の左腕に王冠のマークを見つけた時、心底ほっとした。 
 当たり前だ、こんな馬鹿たちの中の誰かに自分の命を握られていたかもしれないだなんて、考えただけでぞっとする。 
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