910:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/05(月) 09:52:09.04 ID:868/ISGe0
背丈は邑子と似ているのに邑子と違ってしっかりしていて気の強い阪本遼子(女子八番)の、「アンタ、永佳とか春川とかに甘えてばっかじゃ駄目なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが。
いつまでも猫を相手にしているわけにもいかないので、邑子たちは猫に別れを告げ、再び歩き出した。
はっきりとした目的地はないのだが、クラスメイトを探すために。
クラスメイトを探し、殺めるために。
英隆と永佳はこれまでクラスメイトを発見すれば積極的に攻撃し、宍貝雄大(男子八番)を殺害し、荻野千世(女子三番)を死に至らしめる原因となった。
邑子と卓也は何もしなくて良い――2人からはそう言われていた。
2人に任せて自分は何もしないなんて良いのだろうかと疑問に思う反面、クラスメイトを傷付けなくても許される現状に安堵している自分もいた。
小石川葉瑠(女子五番)に“共犯”と責められた時にはショックを受けたが、涙が枯れる程泣いた後に改めて考えると、英隆たちを止めない自分は確かに“共犯”なのだろうと思った。
いいんだ、ゆーこは“共犯”で。
だって、死ぬなんて怖いもん。
でも、誰かを撃ったり刺したりするのも怖い。
どっちもしなくて済むなら、ゆーこは“共犯”って言われた方がずっとずっと良いもん。
がさっ
不意に、右側から葉の擦れる音がし、邑子は足を止めた。
「邑ちゃん…?」
英隆の声色からは、気を付けろという思いが伝わってきたのだが、邑子はさして気にも留めず、茂みの方へ足を向けた。
「さっきの猫ちゃんかも」
先程水を与えた猫が、ついて来てしまったのかもしれない。
どこかに、先程見たものと同じ光る瞳があるはずだ――邑子は茂みの傍にしゃがみ、枝の隙間を覗き込んで猫の姿を探した。
しかし、光る瞳はどこにも見当たらない。
代わりに邑子が目を留めたのは、枝の色とは少し違う、ブラウン地のチェック模様――そう、邑子にとって見慣れた、帝東学院中等部の男女の制服のズボンやスカートの布地の模様。
そこまで思考が及ぶと同時に邑子は丸い目を大きく見開き、ばっと顔を上げた。
何かが自分目掛けて近付いており、邑子は「わっ」と声を上げながら咄嗟に上半身を後ろに倒しつつ、反射的に両腕を顔の前に出して防御の構えを取った。
次の瞬間、左腕を鋭い激痛が襲った。
「あああぁぁぁぁあぁっぁあッ!!!」
邑子は絶叫し、痛みの突き上げる左腕を右手で押さえた。
右手が生温い液体で濡れた。
左掌から肘の裏側に掛けてすっぱりと皮膚が裂けていたのだが、ただ痛くてたまらないということ以外、今の邑子にはわからなかった。
「邑ちゃんッ!!」
英隆が邑子に駆け寄った。
邑子を抱えようとする英隆に、襲撃者が再び襲い掛かった。
「春川、前ッ!!」
永佳がデイパックをぶんっと振るうと、それは襲撃者に当たり、「ぐっ」という短い悲鳴が聞こえ、襲撃者の身体がよろけた。
永佳は目の端で別の人物を捉え、もう一度デイパックを振るったが、今度は空を切るに終わり、相手はお返しとばかりに何かを持った手を振り下ろしてきた。
永佳はデイパックを捨ててその手を押さえようとしたが、伸ばした手は空を切り、何かが緑色のカーディガンの左肩部分を掠めて繊維を裂いた。
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