941:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/06(火) 06:16:04.87 ID:D/J1TKXp0
「泣き事言ってんじゃないよ!!世の中、嫌なことを避けて進めるようにはできてないんだよッ!!」
虎崎の怒号が飛び、かおるはびくっと体を震わせた。萌の嗚咽が一瞬止まったが、先程よりもより大きな声で泣きじゃくり始めた。
そのことに苛立ったらしい虎崎が、大きな足音を立てて萌の横に立ち、萌のふんわりとした栗色の髪を鷲掴んだ。萌が「いやぁッ!!」と甲高い悲鳴を上げた。
「や、やめろよ、成瀬を離せッ!!
泣いたって、怖がったって…そんなの当たり前だ!!今から殺し合えとか言われて平気なヤツ、いるわけないだろ!!成瀬の反応ってすっげー普通じゃん、声にしてなくたって、俺ら全員絶対同じこと思ってるし!!!」
天馬が叫んだ(恐怖からか、声は引き攣り時に裏返っていたけれど)。
虎崎は萌から手を離し、今度は天馬の隣へと移動し、拳を振り上げた。「天ちゃん!!」とあちこちから声が上がり、天馬は目をぎゅっと瞑った――が、天馬が先の龍之介のように吹っ飛ぶことはなかった。拳が当たる寸前で、榊原から制止の声が掛かったのだ。
「まあまあ虎崎先生、落ち着いてください。柏谷の言う通りですよ」
「…まあ、そうだねぇ」
虎崎は納得したように何度か頷くと、教室の前方へと戻って行った。
萌が席を立って天馬に泣きついた時には立ち止まって振り返りその様子を睨んでいたが、「ほれ、さっさと席に戻りな」というお咎めの言葉以外は何もなく、皆がほっと溜息を吐いた。
「それでは、これから1人ずつ順番に出発してもらう。なお、足元に置いてある各自の私物は持って行っても構わない。
出発した者が本部のあるB-3エリアを出た時点で次の者が出発し、最後の者が出発してから20分後にこのエリアは禁止エリアに指定されるので、早くここから立ち去るように。あまりに長いこと居座っていると後が閊えてしまうから、その場合には制裁を行うこともありうるので気を付けること」
榊原はスーツの内ポケットから封筒を取り出すと、鋏で封を切った。中から1枚の紙を出した。
「それでは、最初の出発者を発表する。
男子1番・大塚千晴、逝ってよし!」
全員の視線が、千晴に集まった。千晴はぽかんとしていたが、虎崎の「ほれほれ!!」と急かす怒号に押されるように立ち上がった。足元の鞄を肩に掛け、ゆっくりと教卓の前に立った。
「みんなのご家族にはちゃんと報告してあるから、存分に戦ってな!ほんなら大塚、先生の言う言葉を繰り返してなー!
私たちは殺し合いをする、はい!」
渡部の口から飛び出したとんでもない言葉に、千晴は「…え?」と茫然とした声を漏らした。
「ほらほら、ちゃんと言わなコケシで殴るで?私たちは殺し合いをする、はい!」
「わ…たしたち、は、殺し合いを、する…」
「よっしゃよくできました、ほんなら次、殺らなきゃ殺られる、はい!」
「やらなきゃ…やられる…」
まるで洗脳しているみたいだ、かおるは思った。
「…千晴……ごめんな……」
不意に、小さな声が聞こえた。掠れて虚ろだけれど、藤丸の声だった。
千晴が藤丸の方に顔を向けた。
「藤くんのせいじゃないよ……藤くんは、何も悪くない…でしょ?」
千晴の静かで優しい声。相手を思いやり労わる、聞き慣れた声。
千晴はあんな上辺だけの言葉で洗脳なんかされやしない、いつもの穏やかで優しい千晴のままだ。
1002Res/954.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。