過去ログ - 大学教授「私がアイドルのプロデューサーだと」
1- 20
26: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:38:39.98 ID:KMurB9r40
「まあ、それはともかくとして。私は君と仕事がしたいのだよ。君は私がティンときた数少ない人間の一人だ。君のような人材を一から探すのは大変な苦労なのだよ」

どうやら高木は昔と変わっていないようだ。初めて会ったときも「ティンときた」などと言って話しかけてきたのだった。
その時のことがふと頭に甦り、変わったのは私なのかもしれないと思った。


27: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:39:51.65 ID:KMurB9r40
「しかし高木、お前がどんなに言おうとも私は大学教授を辞めるつもりはないよ。これは私の天職だ」

そう、私は大学教授という職業に誇りを持っている。学問一筋にひたすら精進を続け、大学教授になったのだ。
変わることは悪いことではない。私は今の立場に、十分満足しているのだから。


28: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:41:30.93 ID:KMurB9r40
高木は街頭に目を逸らして、思案している風である。

満足している。私は満足しているのか。実際のところ、学問をする悦びというものに出会うのは五年に一回くらいである。その悦びのために生きていると言ってもいいほどの驚きと感動ではあるが、私は本当にそれに満足しているのか。


29: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:42:41.29 ID:KMurB9r40
いや、学問の悦びだけではない。
私が大学教授という職業に誇りを持っているのは、後進の育成の点においてである。私という器に入っている知恵を若者の器に余すことなく流し込んで行く作業、これこそが私の悦びである。
私より大きな器を持つ者に数多く出会った。そのような者に出会う度に、私は大学教授であることを誇りに思うのだ。
私は彼らを応援することができる。彼らを羽ばたかせることができる。そして彼らを輝かせることができるのだ。
若者の育成こそが私の悦びである。そう、私は満足している。しているのだ。


30: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 13:43:52.52 ID:KMurB9r40
高木はゆっくりと私に視線を戻して、

「うむ。君は素晴らしい大学教授だよ。教育者としては一流の人間だろう。だが君の天職は大学教授ではなく、アイドルのプロデューサーだと私は断言しよう。
彼女たちの可能性は無限大だ。底知れぬ器を持っているのだよ。
彼女たちを応援して欲しい。彼女たちを羽ばたかさせて欲しい。そして彼女たちを輝かせて欲しい。そう、人の心を揺さぶるほどに」


31: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 14:17:57.90 ID:KMurB9r40
そう言うと高木はエスプレッソを頼んだ。少しして運ばれてきたコーヒーを
ブラックのまま一口含んだ高木をちらりと見て、私は冷え切ったコーヒを一口に飲み干した。

嫌な奴だ。そう、昔から。思えばあの頃から私はプロデューサーだったのかもしれない。高木のために詞を書いたあの頃から。


32: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 14:18:59.65 ID:KMurB9r40
満足しなかったのも当然だった。高校時代、私は既に高木というアイドルに出会っていたのだから。

そう考えて、私の目の前でブラックを不味そうに飲む高木は、およそアイドルらしい風貌をしていないことが無性に面白かった。
一瞬、もう一杯エスプレッソを頼もうと思った。高木と思い出話に花を咲かせようと思った。
しかし、プロデューサーになろうという決意を固めた今、不意に不安が込み上げてきた。果たして私はプロデューサーなれるのか。


33: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 14:20:15.58 ID:KMurB9r40
「考えさせてくれ」

と私は呟いた。
ちょうどブラックに砂糖を入れようとしていた高木は、大声で笑った。やはり高校時代と変わらない、あの笑顔で。

以下略



34: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 14:21:15.60 ID:KMurB9r40
嫌な奴だ。

「昔から変わらないねえ」という高木の言葉を振り切るように、私は席を立った。

「また、会おう」
以下略



35: ◆HdrJTu3Tbs[saga]
2013/03/31(日) 14:21:57.30 ID:KMurB9r40
会計を済ませた私の背中に、高木の声がかかる。

「いい返事を期待しているよ。もし承諾してくれたなら、私のデビューシングルを贈呈しよう」



36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/03/31(日) 14:22:27.22 ID:yH/BGYnMo
ハードボイルドだな


132Res/51.74 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice