31: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:07:56.14 ID:apyY2YgH0
「ちひろさん。8月31日…夜、開けておいてください」
強い意志を含んだ言葉は、伺うことを知らなかった。
ぼくにとって、これは人生の分岐点なのだ。
言い繕っている暇すら、ないのだ。
『…わかりました。お気に入りの服で、行きますから』
彼女は察しがよかった。きっと、気付いているのだろう。
その後から、ぼくの顔をちらちらをみては、すぐに逸らす。
ぼくも同じようなことをしていたので、人のことは言えない。
時間と場所を端的に伝え、ぼくは約束を取り付けた。
なんだか互いに照れくさい雰囲気になってしまい、箸が進まなかった。
けれど、別にいやな雰囲気でもなく、言葉がなくてもよかった。
ただ、氷を揺らしながら、ぼくたちは笑いあった。
店を出て、夏に珍しい冷たい風が吹き抜けると、酔いもきれいにさめていた。
そしてまた、ぼくたちは背を向け、ネオンの中に消えていく。
けれど…ああ、そうだ。次、ぼくたちが帰るとき。
肩を並べて、同じ方向に消えていければ。
ぼくは、それだけを願った。
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