過去ログ - ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が…
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キャタピラさん
◆EhtsT9zeko
2013/04/27(土) 23:14:44.52 ID:4bbA3AcR0
魚を取り落として、私は尻もちをついてしまった。に、に、逃げなきゃ…そうは思っても、とっさのことで足が動かない。そんな私に彼女は手を伸ばし、私の口を覆った。そして耳元でまた、囁くように
「静かに」
と言って、あたりを見回した。それから
「立って!」
とまた小声で言うと、私をたき火の方まで引きずっていく。彼女は息を殺して
「あいつら、水音には敏感なんだ。あたり、気を付けて…」
と緊張した様子で言う。
「あ、あいつら?」
私は思わず聞いた。
「クロコダイルだ。さっきみただろ!?」
「あ、ワ、ワニ!?」
「そうだよ!しゃべんな!警戒しろ!」
彼女は私を叱りつけるように言った。
どれくらいの時間がたったかわからない。その間、動物の鳴き声はしても、何かが近づいてくる気配はなかった。
「ふぅ、大丈夫そうだ」
彼女は改めてそう言うと、どっかりその場に腰を下ろした。私も、なんだかよくわからず、ペタンと座り込んでしまった。なんだかまだ、脚に力が入らない。
「あーあ、びっくりして魚ほうりだしちまったじゃんか、もったいない」
彼女はそう言って、自分が取り落とした魚を拾い上げ、まだ汚れていない部分を探して口に運んでいる。
「こ、殺さないの?」
「あ?」
わけがわからず、彼女に尋ねてしまう。
「あークロコダイル?」
「わ、たし、を」
「あぁ、そっちか」
彼女は少し考えるように宙を見つめてから
「あんたを殺して戦争が終わるんなら、喜んで[
ピーーー
]よ…あ、でもそしたら死体を引っ張ってかなきゃまずいか?証明できねえもんな。それは嫌だな。死体運ぶのなんかまっぴらだ。死体じゃなくたって、こんな森ん中、人ひとり運んで歩くなんて、ごめんだな。うん、じゃぁ、殺さない」
と割と真剣な表情で私に告げた。理解できない。私は敵なのよ?あなたを殺そうとした人間なんだよ?!
「どうして!?私は、敵!殺せばいいでしょ!」
私は、なぜだか、彼女に強い口調で言っていた。
「騒ぐなって、あいつら耳だけは良いんだよ!…、と、で、なんだ、あんた死にたいの?」
「そ、そうじゃなくて…」
「あー敵兵だから?ジオンが悪で、コロニー落っことしてきて、人がいっぱい死んだから、とか、そういう話?」
「そ、そうよ」
「別にあたしには関係ないしなぁ。どっちが良くてどっちが悪いかなんて考えて戦争やってないし」
「なによ、それ」
「うん?金がほしくって、さ」
「お金?」
「そう!あたしさ、小さいころに親死んじゃってね。で、いろんなとこをたらいまわしにされて生きてきて、で、学校卒業してからは行くトコないから、軍に入ったんだ。身元引き受けてくれるし、戦えば金くれるしさ!」
「傭兵、ってこと?」
「そうじゃないよ、ちゃんと正規軍人さ。なんつうか、さ。ほら、あんだろ、わかれよ」
「わかんないよ」
「あーもうっ!あー、あれだ、やりたいことがあるんだ」
彼女は、なんだかじれったそうな、恥ずかしそうな表情で言った。
「なにを?」
「ここより、ずっと北にいったところに、セブ島て島があってさ!海がすげーきれいなんだよ!あたし昔っから海が好きでね、そういうところで暮らしてみたいなーってずっと思ってたんだ!だから、働いて金をためて、家と船でも買ってさ。魚とって売ったり、ダイビングのンストラクターしたりして生活できたら楽しいだろうなって!」
最初はあんなに恥ずかしがっていたくせに、いざ話し始めたら、なんだか子供みたいにはしゃぎ始めた。なんだろう、この子は。これまで、何人もの連邦の軍人にあってきたけど、こんなに無邪気で、とっぽい人は始めてだ。
「あんたは?」
「へ?」
急に質問してくるものだから、私は変な声を上げてしまった。
「だから、あんたの話。スペースノイドなのか?」
私は、ジオン公国軍の地球方面軍のパイロット。サイド3で生まれ育った。軍人の家系で、父も母も兄も軍人だった。そう、「だった」。父はルウム戦役で巡洋艦と一緒に宇宙の塵に。母と兄は、最近、ラサから転戦した先のオデッサで戦死した。聞いたときはとても悲しかったけれど、軍人だし、覚悟はしていた。だから別に落ち込んでなんかいない。落ち込んで、こんな無茶な任務を受けたわけでもない。単純に、命令が下りてきたから、参加しただけ。
「そっか、あんたも天涯孤独の身か」
私の話を聞くと彼女はそう言ってすこしだけ、さみしそうな顔をした。それから
「家族のことは、残念だったね…あたしが悪いわけじゃないんだけど、一応、殺したのはこっちの身内だ。謝っとく」
と、遠くに視線を投げながら言った。
「うん、仕方ない、戦争だし…」
なんだか、言葉が継げなかった。たぶん、彼女の「残念だった」と言う言葉と、謝罪が、本心からのものだったからだろう。なんだか、気持ちがストンと落ち込んでしまった。
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