5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/04/29(月) 07:32:54.70 ID:IfvVtyDz0
時間にして約15分、広場を3往復もした頃だろうか、凛太郎は小腹が空いたのか真っ直ぐに俺の方へ
歩いてきた。既に権兵衛その他の鳩の群れも俺の焼き鳥を物欲しそうな目で見ており、俺もまあ焼き鳥
は止めとくかとミックスナッツの袋に手を伸ばした頃であった。こちら目掛けて歩いてくる凛太郎の後方
2メートルにはやはり、先ほどの女が飽きもせずついてきており、これってどうなるんだろうと思いながら
俺は、でも俺にできる事をやらなければと変な義務感に心をざわつかせながら、権兵衛その他にナッツを
与えていた。すまねぇ、凛太郎。その女はお前が何とかしてくれ。なんて事を思いながら。
でも駄目だった。女に対する警戒心が薄らいだ凛太郎は、逆にこの女を使って群れに対する復讐を
遂げようとでも考えたのであろうか、ガリヴァーを従えたリリパット国の皇帝よろしく、わざと(少なくとも
俺はそう感じた)ゆっくりと俺と鳩の群れに向かって歩を進め、凛太郎とその後ろにいる女に気付いた
権兵衛たちが俺から離れると、視線を落とし、うつむき加減になっている俺の視界の中央に凜として
立った。俺は内心で女に対しての態度を決めると、言った。
「やあ、凛太郎じゃないか。お前もナッツが欲しいのか?さあさ、たんとお上がり」
黙殺である。よくメディアで東京は冷たい街だなどと散々にこき下ろしているが、それは真実であって
真実ではない。ひしゃげた饅頭のような形の大都市東京にはあまりにも人が多すぎ、皆がみんな各々の
信条や習慣に則って生活しているがために、赤の他人一人ひとりの生活に入り込んでまでその心情を
理解しようという余裕が無いのである。自分には自分の、相手には相手の思うところがあり、それらは
各々の信条に従って処理されている、というのがまず大前提であり、そこに過度に干渉していくことは
無粋であり無遠慮と見なされる。なるようになる。そこに善意も悪意もない。けだし合理的といえる。
翻って今回のケースをまとめると、この女は何らかの理由で凛太郎に興味をもち、彼女なりの理由で
後をついて歩いていた。ところが凛太郎には既に俺に食い物を貰うという確立されたスケジュールが
あったため、結果、女の好奇心を満足させるための追跡と凛太郎の予定がぶつかった訳である。しかも
凛太郎は自然界で虫や木の実を探すのではなく、一人の人間、つまり俺からの供給をあてにしていた。
それは凛太郎を追跡していた女にとって全く新しい要素として俺の存在が示されることを意味しており、
俺が凛太郎と同じく鳩やなにか人間以外の別の種族であればまだしも、同じ人間、それもおそらく同じ
ような社会的環境の中で生活している男ともなると、女サイドとしてもそれなりに人と人とが関わる際の
準備をせねばならず、ましてやここは個人主義の街。大都市東京では初対面の男女ともなると更に一定
以上の「良い印象」を相手方に与える必要性が無きにしも非ず、そのためにはまず挨拶、会話と、凛太郎
一羽を追跡するより遥かに高度な、というか面倒なプロセスを構築せねばならない。失敗すれば気まずく
なり、下手をすれば俺のせいでこの女は「もう鳩を追いかけるのは止めよう」という心の傷を負いかね
ないのである。それは俺も望むところではなく、俺と凛太郎は食い物を分け合う仲であるということを女に
周知させつつも、その際俺が女を認識していないという態度を示すことで、俺と女の間には何らの関係も
生まれず、先の印象付けにまつわる雑多な要件を女が満たさなくても良いように仕向けたのである。
ところが。
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