6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/04/29(月) 07:33:25.44 ID:IfvVtyDz0
「その子……凛太郎君って言うんですか?」
やりやがった。いや、俺がやらかしたのか?まさか向こうから話し掛けてくるとは。とにかく俺はリングに
上らなければならない。お互いの下らない印象付けのために。
「ええ、この子は凛太郎。このあたりの……」
そう言いつつ顔を上げた俺は絶句した。女があまりにも美人だったからである。
「このあたりの……?」
心もち首を傾げて俺の言葉の先を促した彼女は、それまで俺が煩悶していた、都会における諸々の
処世術など全く考えたこともない様子で、というか彼女の美貌や透き通る声からして最早人間とは思えず、
俺自身頭の隅で酒にやられたか、弱くなったなあ、もうトシかなあ、などと案じていたのだが、一方で
内心、初対面でここまで直截的に疑問を投げかけてくれる美人に対し、若干の下心に似た気安さを感じ
たのも事実である。正直に言おう、一目ぼれであった。俺は有頂天になりつつも、口調はあくまで紳士
的に、さっきまで考えていたことを彼女に話した。
「……失礼。凛太郎の一族は古来よりこのあたりの鳩をまとめる王族だったのですが、近年は子宝に
恵まれず、求心力も弱まっていました。それまでは武力で押さえつけていた雀や烏との縄張り争いも
激しくなり、群れの中には脱走者も出るなど、徐々に波乱の様相を呈するようになると、一族は忠臣
喜十郎に執務を任せ、後継者探しに躍起になっていました。そんな中で産まれたのがこの凛太郎です。
跡継ぎの誕生に宮中は沸き立ち、一族の安寧は約束されたものと誰もが思いました。しかし……話は
そう簡単には行きませんでした。かねてから首領の座を狙っていた権兵衛の存在です。彼は元々低い
身分の生まれでしたが、激化する縄張り争いの中でめきめきと頭角を現し、その類まれなる巨躯と嘴の
強さ、そして何より、自分と同じく身分の低いものに対する慈愛に満ちた態度で、主に平民からの支持を
集めていました。対する凛太郎はまだ若く、未熟でした。争いの中で家族を失った平民からは凛太郎と
その一族に対する反感が根強く、凛太郎の雪のように白い羽や、洗練された優雅な身のこなしですら
かえって軟弱だなどと悪しざまに言われる始末でした。そんな中――今を遡ること3日前、事件は起こり
ました。凛太郎が立派な成鳥になるまで、と一族に代って政務を取り仕切っていた喜十郎に対し、権兵衛
が白昼堂々、決闘を申し込んだのです。そう、クーデターです。若く自信に満ち溢れた権兵衛に対し、
最早老齢にさしかかっていた喜十郎は遭えなく討たれ、凛太郎の一族も群れから放逐されることとなり
ました。まだ幼い凛太郎だけはかろうじて群れに残ることを許されましたが、成り上がりの権兵衛の嫉妬
は凄まじく、群れの誰もが認める首領の座にあっても、ことあるごとに凛太郎に対して暴力を振るいました。
対する凛太郎は生来争いを好まない性格だったため、家族を失った悲しみを癒すこともできぬまま、今も
こうして、群れの外れでひっそりと生きているのです」
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