5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/02(木) 11:45:23.76 ID:kADqiJRHo
衣「解……除」
それがこの世界で発した衣の最後の言葉で、うなだれると誰のかもわからない手首を落とした。
純「衣様……?」
純「……ああぁ、」
菫「宥!」
拘留の解けた菫は足を滑らせながら、制止した咲に脇目も振らずうずくまる宥に駆け寄る。
菫「しっかりしろ、」
宥は虫の鳴くような声で、「うん」と言った。
大切そうに抱きしめる玄の首には焼け焦げた痕があった。赤く膨れた箇所をさすると菫の脳裏にこの世界に来てからの玄と過ごした記憶が蘇る。
『ほんと!? 良かったーっ。早く会いたいなぁ』
それは初めて出会った山中でも、竜人の力を知った夜でもなく、玄の玄らしい一面が垣間見えた瞬間。
竹井久とのトランプの一戦後、宥の無事を聞いて無邪気にはしゃぐ玄がいた。
――姉に会いたい。
玄の願いはただそれだけだった。撫でられて頬を染める玄、酔いが回って姉の自慢話を聞かせる玄、それらは幸せを求めた純真純白な少女以外の何者でもなかった。
なぜ今、ナガノにいるのかと、そんな疑問さえどうでもよかった。
一日前まで、自分の妹のように可愛がっていた玄が死んだのだ。
菫「これじゃ意味ないだろ」
ぽつりとつぶやく。
こんな残酷なことがあってはいけないはずなのに、止めることのできなかった無力な自分に肩を震わせる。
菫は立ち上がり、ゆっくりと振り返ると暗器を腰から抜き出した。
143Res/97.36 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。