154: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:53:59.32 ID:zRpkF4zAO
トロスト区の奪還。
それはすなわち、あの地獄へ再び身を投じる事を意味する。
公式の発表によると一昼夜に渡る攻防の末、その作戦は成功したらしい。
155: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:55:19.49 ID:zRpkF4zAO
気が気でなかった。
自分が最も憂慮すべきは元の世界へ戻る方法だ。
それは分かっている。
156: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:56:19.37 ID:zRpkF4zAO
だが、そんな過酷な状況下にあっても、中庭には無邪気な笑い声を響かせて走り回る子供達の姿があった。
もちろん、全ての子供がそこで遊んでいるワケではない。
彼らは皆、一人の家族も失う事なく逃げる事のできた幸運の持ち主達だ。
157: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:56:47.88 ID:zRpkF4zAO
見ると、足下に歪な形をしたボールが転がっていた。
不要な布切れを固めて、それを麻縄で幾重にも巻いて丸めた即席のボールだった。
拾い上げて少年達を見やる。
158: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:57:42.85 ID:zRpkF4zAO
ジャイアンはしばし手の中でボールを弄っていた。
やがてそれを少年Aに投げ返すと、少年Bに声をかけた。
159: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:58:15.34 ID:zRpkF4zAO
ボールはゆるい放物線を描き、ゆっくりとジャイアンへと接近してくる。
止まって見えるようだった。
ジャイアンは鉄パイプをしっかりと握りしめ、渾身の力を込めて振るった。
160: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/16(木) 23:58:49.67 ID:zRpkF4zAO
数秒の後、ポスッという乾いた音が響いた。
避難所の庭の片隅。
通用門の一歩手前だった。
161: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/17(金) 00:00:20.80 ID:Z02gmNmAO
ジャイアン「良いか? バットはただブン回せば良いってモンじゃねぇんだよ。こう、腰の捻りをだなぁ」
少年達にスイングの指導をしながら、先ほど打ち上げたボールに目を向けた。
162: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/17(金) 00:01:25.39 ID:Z02gmNmAO
ジャイアン「分かってる。後でちゃんと教えに戻ってくるから。今はちょっと待ってくれ。」
少年A「え〜? ホントにぃ?」
少年B「約束だかんね〜?」
163: ◆51UnYd7yHM[saga]
2013/05/17(金) 00:06:14.13 ID:Z02gmNmAO
ハンナ「ふふっ。優しいお兄さんって感じだったわよ。」
ジャイアン「そんなんじゃねぇよ。ただ、毎日すすり泣きしか聞こえてこないんじゃ気が滅入るからな。ああやって無邪気に笑ってられる奴らの相手してる方が落ち着くんだよ。」
ハンナ「そうね。子供の笑顔は復興の一番の活力になるわ。」
244Res/129.97 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。