過去ログ - 魔法少女フラン☆マギカⅢ -SS速報VIP

過去ログ - 魔法少女フラン☆マギカⅢ

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570:1[saga]
2013/07/21(日) 22:36:02.06 ID:IACn5YQp0
　続けられた言葉を聞くことを、脳が拒否した。
考えたくもない可能性を、杏子は口にして、まどかはそれを聞かなかったことにしたかった。

　けれど、その耳は、はっきりと、それを聞いていた。

　空気が止まった。時間が止まった。
雨の音はピタリとやんで、杏子の赤い紙や緑のパーカーが、くすんで見えた。
まどかは、そんな錯覚に襲われる。

　誰も何も言わず、ぞっとするほど凍りついた空気が待合室の中を支配した。
ありもしない幻の中に放り込まれたような気分だ。
それほど、現実感がなかった。

「………………殺す、なんて」

　やめて。口にするのも、やめて……。

　沈黙する空気を引き裂いて、まどかの掠れた懇願は全員の耳に届いた。
それを聞いて、杏子は微かに肩を震わせる。

　杏子は何も言わず、言い返さず、またまどかもそれ以上言葉を重ねなかった。
お互い、何を言っていいのか分からなかったから。

　ただひたすらにショックだった。
人を、それも大切で親しい人を、「殺す」と言うのは、まどかにとって信じられないほど残酷なことだった。
世間一般の常識があって、人並みに良心があって、そして人一倍優しいまどかにとって、誰かの命を奪うなど、考えることすらあり得ないのだ。

　けれど、だからと言ってまどかには杏子を責めるなんてできない。
昨日、何があって、どうしてそんなことを口にするのか、事情は分からないけれど、それでも今杏子がどれだけ辛いか、まどかには想像できたから。

　杏子にとっても、マミは大切な人なはずだ。
そして、一見粗暴でも、彼女も本当は優しいということを知っている。
だからこそ、マミのことをそんなふうに言う杏子の気持ちが、まどかには痛いほど理解できたのだ。

　そして、それ故に分かる現実の無常さ。
杏子が、そんなことを言わなければならないほどの……。

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