536:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/20(木) 03:11:28.72 ID:WU9ARoQ2o
覚束ない足取りで、ツキは猫を追い続ける。
わたしは腕を引かれたまま、どうすることもできない。
ひょっとしたら、このツキも、わたしに都合のいい妄想のようなものなのかもしれない。
現実のツキは死に瀕するわたしの隣で、どうでもよさそうにあくびをしているかもしれない。
……彼はそんな人ではない、と、心の中で誰かが言った。それだって、わたしの中のイメージがそうというだけだ。
このツキが、「わたしにとって都合のいい」妄想のようだと言えるなら。
結局わたしは、こんなふうに言われることを望んでいるということになるのだろうか。
そうだとしたら、すごく、滑稽な話だ。
それでも。
そんなふうに言ってもらえたとしても、やっぱりわたしは、あの日々に戻ることが怖い。
みんなの視線も、母親の表情も、何より自分が浮かべる愛想笑いも、これからずっと続くのかと思うと、怖い。
ツキはもう何も言わなかったし、わたしも訊ねるべき疑問を持っていなかった。
ツキの荒い呼吸が、ふらついた足取りが、わたしを不安にさせた。
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