565:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/22(土) 04:05:52.52 ID:CnjYFZl7o
やがて前方に岩壁が姿を現した。それはまだ遠くにある。見えてきたというだけだ。
どうしてこんなに心が凍てついているんだろう。
たぶん、わたしはどうだっていいのだろう。
結局、この世界で起こったさまざまなことだって、わたしの意思とは関係がなかったのだ。
ただ、シラユキが引っかき回したというわけ。
いずれにしたっておんなじなのだ。
立ち止まりそうになっている人間に、もう少しだけがんばってみろと言う人間がいたなら。
それは、もう少しがんばることもできるだろう。
でも、既に立ち止まってしまった人間にどれだけ声を掛けたところで、それはたぶん、徒労に終わる。
歩くのをやめてしまってから、もう一度歩き出すためには、歩き続けるのとは違う何かが必要になる。
どんなに長く続けていたことでも、一度やめてしまえば、どうして今までそれを続けていたのか、分からなくなってしまう。
たしかにツキを悲しませたくはない。苦しませたくもない。
でも、死んでしまえば……そんなことはもう、関係ない。
岩壁の足下には穴が空いていた。大きな洞穴。足場は悪いが、シラユキは注意深く、けれど躊躇わず、進んでいく。
わたしは両手の塞がった彼女のかわりに、彼女の鞄から懐中電灯を取り出した。
真っ暗闇の中で、それは気休め程度の効用しかもたない。
「行きましょう」とシラユキは言った。
洞穴の中の空気は冷たい。
誰もわたしを求めていないという気がした。
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