過去ログ - 魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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◆1UOAiS.xYWtC
[saga]
2013/06/01(土) 23:56:12.51 ID:+j7WNh9Vo
それから、千と数百年の時が経ち、魔界の一角、『淫魔』達の住まう国の最も栄えた街。
一軒の書店がある。
店内には、いくつもの『物語』を記した本があり、彼女らの王の城、その書庫にさえ引けを取らない。
入り口に面したカウンターに、一人の『淫魔』が坐して、広げた本に目を落としている。
年経て落ち着いたふうに見えるが――――その佇まいは、変わっていない。
ゆるやかに巻いた髪も、瑞々しく豊満な体も、しなやかに伸びる尻尾も。
もう、彼女の心には「夫」の記憶はない。
六年の時を過ごしたあの騎士の顔も、声も、共にいた日々も、覚えてはいない。
何故あの町にいたのかも当然、覚えてなどいない。
不思議に充実した魔力を使って、魔界へ戻る事はたやすい事だった。
カウンターの上には、一輪差しの花が活けてある。
青空のように鮮やかな花が、胸を張って、彼女の横顔を見つめている。
千数百年前、人間界のとある家で目が覚めた朝に、枕元に置かれていたものだ。
その花は、千年の時を経ても、萎れも枯れもしない。
ある時は店を彩り、ある時は彼女の髪を飾った。
星形の花弁を見る度に、どこかからやって来る温もりを彼女は覚える。
いつも彼女の側にあり、ずっとこの書店と、その主とともにある。
――――――その花の名は、『ワスレナグサ』といった。
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