過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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2: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:25:18.97 ID:Zr8YYylw0
なぜか?
それはこの地学講義室が古典部の部室だからに他ならない。
古典部と称されながら、古典らしい古典がこの部室で読まれた覚えはないが、とにもかくにも古典部だ。
里志は推理小説を嗜むし、伊原に至っては一年の頃まで漫画研究会だった。
千反田も幅広いジャンルの本を読んでいるようだし、俺も読書は決して嫌いじゃない。
部員全員がそれなりに読書を好んでいる。
古典部とはつまり本を読む部なのだ。
ならば本を読む際、重要な条件はなんだろう。
もちろん色々あるだろうが、一番重要なのは適切な光源があることだと俺は思う。
暗ければ文字が見えないし、明る過ぎても本など読んでいられない。
まあ、改めて考えるまでもなく常識にして当たり前なのだが。
だが今日の俺は夕陽に目を細めた。
今日、俺は地学講義室の鍵を誰からも預かっていない。
地学講義室のドアのカギは開いていた。
本を読む部にも関わらず、カーテンを閉めなかった部員が先に来ていたわけだ。
カーテンを閉めていないどころか、本すらも読まずに退屈そうにしている部員がそこに居たからだ。
「よっ、遅かったじゃん、ホータロー」
俺の姿を認めたそいつは夕陽に負けない俺に笑顔を向ける。
雰囲気こそ似ているが、そいつは仮入部でしばらく部室に入り浸っていた大日向ではなかった。
そんなことは俺にだって分かり切っている。
髪の長さも背格好も大日向とは声色も全く違っていた。
慇懃無礼なきらいはあったが、そもそも大日向の口調はここまで砕けていない。
「掃除が長引いたんだよ」
俺はわざと軽い感じで応じた。
嘘は言っていない。
教室の掃除当番だったのは本当だった。
しかし必要以上に念入りにやってなかったかと問われれば、そうだと頷かざるを得ない。
先送りは何の解決にもならないと分かっていながら、ちょっとした逃避に耽ってしまっていたのだ。
なんとか平静を装ってはいるものの、やはり俺はかなりこいつの様子に戸惑っているのだろう。
「へー、そうなのか、お疲れさん」
俺の言葉を気にした風もなく、そいつは自分の襟足周辺を頻りに触り始める。
俺の姿を認めたから髪型を気にしていると言うわけではなく、
さっきまでもそうしていたからそうしていると言わんばかりの自然な行動だった。
自らの髪の長さがまだ気になっているのだろう。
俺と伊原の説得で思い留まってはくれたが、先週までは髪を切りたがっていたからな。
「気になるのは分かるんだが」
「わーってるって。
こんなに綺麗に伸ばした髪を切るのももったいないもんな」
俺が皆まで言う前に悟ってくれたらしく、そいつはまた笑顔を見せた。
少し砕けた言葉遣いではあるが、相手を慮る事ができる奴なのがせめてもの救いか。
「つーかさ、こんな髪型、小っちゃい頃以来なんだよな」
ポニーテールに纏めた黒髪を掴んで苦笑する。
前髪を上げてカチューシャを着け、後ろ髪をポニーテールに纏めている。
傍から見るとどれだけその長髪が邪魔なのかと思いたくなる髪型だが、
これが俺たちの最低限の折衷案が採用された髪型なのでお笑い種にすることもできない。
辛うじて俺にできるのは、軽い疑問を口にすることだけだ。
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