過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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32: ◆2cupU1gSNo
2013/07/09(火) 18:33:37.47 ID:eFUnsoWc0
「それなら他に千反田が何か」
「ねえ、ホータロー」
里志が横から俺たちの会話に入ってくる。
口八丁と言ってもいい里志だが、こんな時に茶々を入れるようなやつでもない。
俺は言葉を止めて里志に視線を向けてやる。
「どうした里志」
「どうしたも何もほら」
呆然と称するほどではないが、若干驚いた表情で里志が教室の中をその指で指し示す。
指先を辿ってみると指し示していたのはひとりの女子生徒だった。
短髪の眼鏡の女子より背はかなり高い。
前髪をカチューシャでまとめて額を出し、後ろ髪を丸ごとポニーテールにして纏めている。
髪型はともかくとしてどこかで見た覚えがある様な気がする女子だった。
いや、見た覚えどころかこいつは。
「千反田?」
思わず疑問符付きで呟いてしまう。
ドアを開いた時にとりあえず一通り見回していたはずなのだが、全く気がつかなかった。
髪型が違っているのもあるが、制服の着こなしまで普段と千反田とは似ても似つかない。
何しろセーラー服の下の肌着をスカートの中に入れていないのだ。
今更考えるまでもなく神山高校の制服は古めかしいセーラー服であり、その下には肌着を着るのが一般的だ。
そしてその肌着はスカートの中に入れる。
何人かそうではない女子を見かけた事はあるが、あんなものは例外中の例外だ。
活発な性格の伊原ですら肌着はスカートの中に入れている。
常識以前の問題だろう。
特に良家の子女であり、好奇心の強さ以外は楚々とした性格の千反田だというのに。
千反田は肌着をスカートの中にしまっていないのだ。
それどころかその臍まで見えんばかりにセーラー服をずり上げている。
「変装成功だね、千反田さん!」
眼鏡の女子が振り向き様に千反田に親指を立てる。
外見とは裏腹にノリのいい性格らしい。
しかしこれは変装とかそういう次元の話なのか?
確かに俺と里志はこの教室のドアを開いた当初に千反田の存在に気付かなかった。
眼鏡の女子はこれも『ゲーム』の一環として捉えてるらしいが、俺にはどうもそう思えない。
大体にして『ゲーム』の答えが『第二理科準備室』である以上、千反田が変装する理由などどこにもないはずだ。
「『ゲーム』クリアおめでとう!」
そう言いながら千反田が俺たちの方に歩み寄って来る。
どうしたことだろう。
俺にはその千反田の歩き方にすら違和感を覚えてしまう。
普段の千反田の歩き方が取り立てて清楚というわけではない。
今の千反田の歩き方が取り立てて下品というわけでもない。
だが今の千反田の歩みは俺が知っている千反田のそのどれとも異なっていた。
やはりそうなのか?
俺の違和感に間違いはなかったということになるのか?
「思ってたより来るのがずっと早くてびっくりしたよ。
うん、これなら大丈夫そうだな、折……ホータロー」
ホータロー。
まるで里志がそう呼ぶように、間の抜けた語尾の伸ばし方で千反田が俺を呼ぶ。
これまで千反田が俺をそう読んだことは一度もなかった。
しかし不思議なことに俺はその現実を簡単に受け容れ始めていた。
いや、むしろしっくりくる。
今の千反田ならそう呼んで然るべきという気すらする。
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