52: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/22(土) 01:55:54.84 ID:1gSiRoL5o
――。
声が出ない。なぜだろう。すぅっと出てくるはずの、”応援している”の言葉。何で今日に限って――。
『ッ……!』
眼を覚ました。ここはどこだ。そう思って、俺は見回す。薄暗いオフィス、ぽつんと置かれた机、減った書類、消えた活気。いつもの、そしてかつての事務所だ。
『ああ、また寝入ってたのか……』
俺はそう独語した。やることがなくなってからはや一週間。完全に俺は無気力の人形になっていた。
茄子さんが移籍したために、仕事がなくなったというのも理由の一つではあるが、どうしようもないほどの虚無感が体を襲っているためだった。燃え尽き症候群と言うやつだろうか。五月病にはあまりにも遅すぎるだろう。
それに、スカウトをする気も、小規模なオーディションを開く元気もない。いつもは、アイドルが移籍してから二日ほどで、小規模なオーディションを開催していたのだが……。
『……はぁ』
結局、移籍当日まで彼女とほとんど話すことはなかった。レッスンも、知り合いのトレーナーさんたちに頼んだだけである。当日も、見送りに行くことはなかった。
我ながら女々しいと思う。売り捨てておきながら、未だに茄子さんに未練があるなど、男としても人間としても下劣極まりない。
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