134: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:04:52.73 ID:zpMoHYvIo
 『……ふう』 
  
  俺は息をついた。プロダクションの隣、駐車場に車を止めて、その隣で缶コーヒーを片手に、待っていた。 
  
  しばらくすると、彼女が出てきた。後ろには、数人のプロデューサーと社長、そしてちひろさんが見送りにきている。そうして、ぱたぱたと彼女がこちらへと駆けてくる。 
135: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:05:18.81 ID:zpMoHYvIo
 『茄子さん、一応聞くが……。良いんだね?』 
  
  俺はそう尋ねる。その問いに、茄子さんは嬉しそうに、だがどこか寂しそうに笑う。 
  
 「はいっ、ずっと決めていたことですから……。それに」 
136: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:06:09.49 ID:zpMoHYvIo
 「……ここに来るのも、久しぶりですねー」 
  
 『そうだな。最後に来たのは……、去年の初詣、かな?』 
  
  二人してやってきたのは、かつて茄子さんと出会い、そして俺を変えてくれた、あの小さな神社。コインパーキングに車を止め、石段を一歩、一歩と登り始める。茄子さんは自然に俺の腕を取り、俺は先導するように脚を動かす。 
137: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:06:35.64 ID:zpMoHYvIo
 『三年間、本当にお疲れ様だった、茄子さん』 
  
  彼女も、俺に向き合い、笑って言う。 
  
 「三年間、本当にお世話になりました、Pさん」 
138: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:07:03.16 ID:zpMoHYvIo
 「Pさん」 
  
 『どうした、茄子さん』 
  
 「あれから、三年ですね」 
139: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:07:29.34 ID:zpMoHYvIo
 『ずっと、言おうと思っていたことがある。三年前から、ずっとだ』 
  
  手が、足が、体が震える。これが武者震いと言うやつだろうか。そう強がっても、体の震えが止まらない。 
  
 「ふふ。はい、何ですかー?」 
140: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:07:55.68 ID:zpMoHYvIo
 「一緒にいてくれるだけじゃ、駄目です、Pさん」 
  
  彼女も、一歩俺の方に近づいた。お互いの息遣いを感じる。もう、彼女の顔がすぐそこにあった。 
  
 「Pさんは」 
141: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:08:23.77 ID:zpMoHYvIo
 『茄子さん。……いや、茄子』 
  
  俺は、初めて彼女の名前を呼び捨てにした。彼女が少しびくりと身を震わせ、そして俺を見上げてくる。そのしなやかな髪に、ゆっくりと手を置いて、俺は慈しむように撫でる。 
  
 『俺はずっと、茄子の幸せを願っていたよ。それが間違いだったことが、今分かった』 
142: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:09:09.77 ID:zpMoHYvIo
 「……っ、はいっ♪」 
  
  彼女は、そう言った。そして俺の腕の中で、琥珀色の瞳から涙を零し、笑顔で俺に抱き着く。そのまま、ぎゅっと力を込めて抱きしめてくる。 
  
 「ずっと、ずっとその言葉を待ってたんですよ……っ? 三年も、待ったんですから……っ」 
143: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:09:41.56 ID:zpMoHYvIo
 『はは、また、だな。茄子からでいいよ』 
  
 「えっ、あっ、は、はいっ」 
  
  茄子は少しはにかみ、そして涙をぐしぐしとぬぐって、笑いながら俺を見上げてくる。その瞳が俺をじっと見据え、まるで誘っているような錯覚を覚える。 
144: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:10:46.62 ID:zpMoHYvIo
 「だったら、その、キス、とか……、いっ、いえっ、なんでもないですよっ!」 
  
  ぷっつん。自分の中で張りつめていた何かが、切れた気がした。駄目だ、抑えられない。彼女への愛しさが、止まらない。気付けば、俺は茄子に言っていた。 
  
 『目を閉じてくれ、茄子』 
145: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:12:07.14 ID:zpMoHYvIo
 「……んっ」 
  
  唇に感じる、温かく柔らかい感触と、茄子の甘い声。それが、俺の脳を貫き、揺さぶる。 
  
  気が付けば、顔を真っ赤にしてはにかむ、幸せそうな彼女の顔がそこにはあった。茄子は、物欲しそうな目で俺を見る。ああ、そんな目で見ないでくれ。 
146: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 03:19:05.56 ID:zpMoHYvIo
 本日の更新で、この作品は終了です。 
 茄子さんの運は、鷲頭並みの剛運なんかじゃなくて、ささやかな幸運とささやかな偶然が積み重なっているだけ。 
 そんな感じの話を書きたいと思ったのがきっかけでしたが、上手く表現できなかったかもしれません。 
  
 中盤から終わりにかけては、やや駆け足のご都合主義になった気もしますが、これほどの長さの物を書いたのは久しぶりですので何卒ご寛恕を。 
147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 03:40:43.74 ID:/dr+zHhno
 i.imgur.com 
 i.imgur.com 
 i.imgur.com 
 鷹富士茄子(20) 
148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 06:48:00.70 ID:we6D+PlC0
 乙乙乙 
149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 08:16:44.10 ID:VbLa7dSvO
 乙 
 良かった 
150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 08:28:27.49 ID:GEv+Z1Sjo
 おっつおっつ 
  
 茄子さんとなら幸せになれそうだ 
 どうぞ末永くお幸せにってね 
151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 20:10:37.60 ID:4058Y12Fo
 乙 
  
 ええ話や 
152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/04(木) 20:18:06.24 ID:zI4c2UFoo
 讒言じゃなくて諫言だと思うよ。 
 讒言する人は組織にいると崩壊する。 
153: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/04(木) 21:45:10.10 ID:zpMoHYvIo
 ああ……、やらかしてますね……(;w;) 
 推敲しないと駄目ですね。次に使うときがあれば、確実に改めたいと思います。 
154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/07/05(金) 00:21:46.64 ID:Ed2lqRAa0
 >>1 最高に乙!! 
 ますます茄子さんが好きになりました。 
 すばらしいSSをありがとう!!! 
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