2:@[saga]
2013/06/15(土) 00:58:22.97 ID:rH3krSfi0
・・・・・・
ピンポーン。
チャイムの音に、杏は顔をあげた。いつもの風景、恒例行事。カメラで確認するまでもなく、訪問者の予想はついた。
布団にくるまったままでしばらく待っていると、やがて合鍵を使ってあの人が部屋まで上がり込んでくる。
「杏。もう出社時間だぞ」
低い、それでいて起伏に乏しい声が杏の布団に降りかかる。耳に馴染んだその声を聞くと、嫌が応にも目が覚める。
でも杏はそれを悟られるのが嫌で、布団から顔を半分だけ出した状態でプロデューサーを見上げる。
「やだなぁ、プロデューサー。出社時間はまだでしょ?」
「そうだな。正確には、今すぐ家を出ないと遅刻するぞ、だ」
「プロデューサーもお疲れでしょ? ちょっと休んでいきなよ。10時間くらいさ」
「疲れるとわかってるなら、頼むから自分の足で出社してくれ」
「ふんだ。杏はもう売れっ子だから、働かなくたって暮らしていけるんだもんね。ビバ印税! 夢のニートライフ!」
「いいから行くぞ」
杏の言葉をほとんど無視して、プロデューサーは杏の体を持ち上げた。まるで荷物みたいに小脇に抱えられた杏は、そのままプロデューサーの乗ってきた車の後部座席に放り込まれる。
「寝るなよ。事務所に着くまでに飯を食べておけ」
プロデューサーは心底ダルそうな声で言いながら、杏のすぐ近くに転がっているおにぎりと水筒を指差した。
「えー、めんどくさい。朝ごはんなんていらないって言ってるじゃん」
なんて言いながらも、ラップとアルミホイルに包まれたおにぎりを食べ始める。だってこれは、だらしない杏のためにプロデューサーが早起きして作ってくれたものだって知ってるから。
プロデューサーは、すごい人だ。こんなダメ人間の杏を、本当にトップアイドルにしちゃったんだから。
もうアイドルをやめたって、一生暮らせるくらいの貯金はある。それでも杏がアイドル活動を続けているのは、純粋にアイドル活動を楽しいと思えるようになったから。それに、個性がぶっとんでるけど良い子ばかりの、事務所の仲間たちがいるから。
そしてなにより……
大好きなプロデューサーとの、唯一の繋がりを保つためなんだ。
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